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チャンスは自分でつかみ取る!


『わたしがいどんだ戦い 1939年』(2017年)

キンバリー・ブルベイカー・ブラッドリー作 大作道子訳 評論社

「表紙は微妙だけれど、すっごくよかった!」とおススメされて、手に取ってみた2018年の高等学校の部での課題図書。課題図書に関しては、色々と思うところがあるのだけれど、こういう物語が入って入ると嬉しくなる(←上から目線)

戦争時代の話ですが、戦争による悲劇というよりも、戦争がきっかけで現状を変えることができ、救われた個人もいたという物語。原題は“The War That Saved My Life” ‐ 私の人生を救ってくれた戦争。

重たいテーマに見えるかもしれませんが、ぐいぐい引き込まれ、一気読みでした!

《『わたしがいどんだ戦い』あらすじ》

ロンドンに暮らす主人公のエイダは内反足。母親から奇形児扱いをされ、部屋から一歩も出してもらえず、ひどい虐待を受けていた。そんな中、かわいい弟のジェイミーだけが救いだった。ある日、母親に内緒で歩く練習をすることを思い立ったエイダは、なんとか歩けるようになり、ジェイミーが疎開するときに、母親には黙って自分もついて行く。

ところが、疎開先では、誰も二人を預かりたがらず、仕方なく二人は変わり者の独身女性スミスさんに預けられることに。ぶつかり合いながらも、徐々に絆が深まっていく三人。スミスさんのところにいたポニーに心奪われ、乗りこなせるようにまでなったエイダの世界は少しずつ広がっていく。

エイダが現状を打破できたのは、自分の強い意志をもって、一歩を踏み出したから。

もちろん戦争という大きな出来事がなければ、変えられなかったかもしれないけれど、でもあのとき歩く練習をする、という一歩を踏み出していなかったら、疎開するチャンスもつかめなかった。

現状は変えられる、そんな勇気をくれる一冊です。

■トラウマ理解の手助けに

ところが、このエイダがね、まあかわいくないんです!頑なに心閉ざしていて一筋縄ではいかない。ちょっと触れられるだけでも嫌。虐待を受けた子は、こんなところで拒絶反応を示したり、パニックになるのか、と、そのトラウマがすごくリアルに描かれています。

というのも、作者のキンバリーさん自身が虐待を受けた経験者だそうなのです。周りが良かれと思ってしてあげたことが、裏目に出たりする様は壮絶です。時に歯ぎしりしたくなるほど、恩知らずな言動もあったりで。それでいて、あれだけヒドイ自分の母親には、まだうっすら母の愛情があると幻想しているから、驚きです。

でもねえ、虐待されてる子ってそうなんですよね。親を否定してしまったら、自分の存在否定してしまうことになりそうだから。彼女のような子の抱えている闇が、いかに根深さにも気付かされます。

私も身近にトラウマ抱えた人が何人いるのですが、正直、時に頭に来ることもあるんです。いつまで、それ言い訳にしてるの?! その態度はどうなのって。でも、この物語は、そう簡単なことじゃないことを、改めて教えてくれました。

また、この物語にはトラウマに加え、イギリスの階級社会も絡んでくるから厄介。エイダにはスミスさんのように働かずとも暮らしていける人が理解できないんですね。それで生活が苦しいと言われてもねえ、って。私たち日本人にもこのあたりは理解しづらいかも。

表面に見えることだけで、判断しちゃいけないなあ。

■多様性の新時代を生きる子どもたちに

ところで、二人を預かるスミスさんも心に闇を抱えています。同居していた最愛の親友ベッキー亡くなり、その悲しみからいまだ立ち直ることができていないのです。

本文には書かれていないけれど、近所の人たちからスミスさんが白い目で見られていること、牧師である父親から勘当状態だったことを考えると、おそらくスミスさんとベッキーは同性愛だったのでしょう。

この物語、原書のほうは続編が出版されているのですが、Amazonのレビューコメントを見て悲しくなりました。続編のほうには同性愛を匂わせることも少し書かれていたようで、せっかくいいストーリーなのに、それを入れる必要があったのか。そのせいで孫にこの本をあげれられなくなってしまった、と低評価を付けている人がいたのです。まだ、そんな人いるんだ……。同性愛というところに引っかかって、物語読んでも、スミスさん個人の素晴らしさ(本質)を見れなくなってしまうのか……。

いまの子たちが生きるこの世の中は変わってきています。電通によると、2018年調査では、LGBT(性的少数者)の割合は、11人に1人、左利きの人とほぼ同じ割合なんだそうです。

ただ、周りを見回してそんなにいる?と感じるのは、カミングアウトできない人が多いから。そんな多様性の時代を生きるいまの子たちにはこの絵本(サウザンブックス社、2018年)を差し出したい。同性カップルに育てられる里子ちゃんたちとの幸せな暮らし。時代は、形よりも本質!

この物語を読んだら、同じく疎開もの、大好きな『ステフィとネッリ』シリーズや『おやすみなさいトムさん』も読み返したくなりました。どちらも名作です。

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