サバイバルを楽しむ
『12月の夏休み ケンタとミノリの冒険日記』(2012年)
川端裕人作 杉田比呂美絵 偕成社
今日の一冊は、ニュージーランドの自然の豊かさがよく分かるガイドブックにもなりそうな一冊です。
軽い文体で、本が苦手な子でも読めそう。
《『12月の夏休み』あらすじ》
ケンタ十歳、ミノリ七歳、パパ写真家。三人は、赤道をはさんで日本とさかさまの国、ニュージーランドに住む。ママは、仕事が忙しくて日本にいる。夏休みが始まった十二月、パパの忘れものを届けるため、ケンタとミノリは、二人だけでパパを追う旅に出た。しかし…パパはちっともじっとしていないんだ。どこまでも南へ、パパを訪ねて旅はつづく。小学校高学年から。(BOOKデータベースより転載)
高学年からとありますが、平仮名も多く、本好きな子なら、中学年からでも十分いけそう。
個人的にはこのフォントに慣れなかったり、文章が合わなかったりもしたのですが、一緒にニュージーランドを旅している気分になれます。
特徴的なのは挿絵じゃなくて、写真になっているところ。ケンタとミノリと思える兄妹が歩いてる写真は作者のお子さんなのかな?同じルートを旅して、物語の構想が膨らんだのかな、と想像しています。
さてさて、ニュージーランドは南半球なので、日本と季節が逆なんですよね。ちなみに、ニュージーランドは北島と南島に分かれるのですが、南のほうが寒さも厳しい。私は大学4年生のときに一年間交換留学でニュージーランドの北島に行ってたのですが、南島も2回ほど旅してまわっているので、風景が目に浮かんできて懐かしかったです。一つの国なのに、場所によって自然風景の見せる表情が全然違う、とっても面白い国なんです。
ただ、私は懐かしかったので、色んな思いが出てくるのですが、初めて読む人にどこまで響くのか、興味がわいてくるのか聞いてみたいなあ。
ところで、この物語にシドという森の案内人の仕事をしている大家さんが出てくるのですが、シドは自分がマオリ族であることに誇りを持ってるんですね。おじいさんはイギリス人でお母さんはドイツ人なので、混血なのですが。
いまマオリと呼ばれる人のほとんどが混血なので、自分がマオリかどうかのアイデンティティは自分で決められるとされてます。見た目だけでは区別がつかないことも。白人に近いのに、話してみるとびっくりするほどマオリのアイデンティティを持っていたり、逆に見るからにマオリなのにすっかりアイデンティティを失っていたり。
マオリに生まれついても一度奪われてしまった文化なので、マオリ語も話せない、アイデンティティもよく分からないという人も多くて、ニュージーランドの大学ではそういう社会人市民にも大きく門戸を開いてました。そんなわけで、マオリ関連の授業の年齢層はほんと様々で、大きな家族のよう。楽しかったです!文化復興運動が盛んな時期に行ったので、彼らがアイデンティティを取り戻していく様は、とても興味深いものでした。
そうそう、この物語の中で、ケンタがムール貝をいっぱい取って食べる場面があるのですが、ムール貝は身近な食べ物!アワビなんかも日本では高級だけれど、贅沢に使われていて、マオリの人たちと行ったフィールドワークで食べたアワビクリーム、忘れられない美味しさだったなあ。書きだすと止まらないので、この辺でやめておこう……。
たくさんの思い出と体重(←1年で7キロ太りました、ハイ)と共に帰国した私でした(笑)。
話が自分の思い出話に飛びましたが、こういう本をきっかけに、自然に興味を持つ子が出てくるといいなあ。この物語の中で、ケンタとミノリが二人だけでちょっとしたサバイバル生活を何日か送りますが、この国でならできそうです。ただ、釣りだったり、カゴ編んで川で罠をしかけたり、魚をさばいたり、一度でも実体験しておくことが大事。そしたら、この物語みたいに子どもだけで置いていかれた時(←ってそんな機会普通来ないけど笑)楽しんで乗り越えられそうです!