今日から始める魔女修行
『しずかな魔女』(2019年)市川朔久子作 岩崎書店
今日の一冊は、市川朔久子さんの新刊です。
《『しずかな魔女』あらすじ》
中学1年生の真面目で小心者の草子は、いわゆる不登校。
不登校の理由は自分でも分からない。ただ、学校という場所が息苦しく、とても疲れる。そんな草子の居場所は図書館だった。
そこで出会った司書の深津さんが、しゃべるのが得意でないとつぶやいた草子に「お守りです」といって書いてくれたのは、〈しずかな子は、魔女に向いてる〉という言葉。その言葉が忘れられない草子は、〈「しずかな子は、魔女に向いてる」という文章の出てくる本を探しています〉と、勇気を出して、初めてレファレンス(調べもの相談窓口)を利用してみた。
そして、2週間後。草子に手渡された物語『しずかな魔女』には、二人の女の子のまぶしい夏休みが描かれていた。それは草子にとって「魔法の書」となり、話すことは苦手だけれど、書くことは好きだと気付いた草子は少しずつ歩み出す。
■見守るを学ぶために大人も読みたい
市川朔久子さんの物語はとても優しい。生きづらい現代の世の中を描いているけれど、人間を信じてるなあ、って感じます。
『よるの美容院』でも『小やぎのかんむり』でも、自分の気持ちをうまく言葉として発することのできない繊細な子が多くて、そのもどかしさがとてもよく描かれているんですよね。胸がキュウっとなるけれど、読んでいて、そうそう、って共感する子いっぱいいるんじゃないかな。
ともすると、センチメンタルやクサくなりがちなところを、ギリギリのところでさらっと流すのが市川さんは上手だなあ。
また、そういう子を見守る大人側として読んでも、ハッとさせられます!心配してもらう重たさ、一見寄り添ってくれているようで、人の領域にズカズカと土足で入りこんでくるような大人たちの迷惑さ。そっとしておいてほしい気持ち。
市川さんの物語には、そっと見守る素敵な大人がいつも出てきます。思春期との心の距離感を改めて心に刻むために、大人もぜひ読みたい!
■よく見ること、そして考えること
さて、草子に渡された物語は、おとなしい女の子野枝と、団地に住むおばあちゃんちに預けられた活発な女の子ひかりの夏休みのお話でした。ひかりのおばあちゃんユキノさんが魔女のなり方を教えてくれるのです。一番初めの、一番大事な一歩、それは……
「よく見ること。そして考えること」(P.57)
これが基本。そして、次にもっとよく見ることだ、と。角度を変えて、距離を変えて。
なあんだ、そんなこと!?
と思いました?いや、ホントこれができればみんな魔女の素質あると思うんです。
完全なファンタジーである魔女物語『ゴースト・ドラム 北の魔法の物語』でも同じこと言ってましたもん。(そのときのレビューはコチラ)
あとは、修行の差。
そして、このユキノさんがまた素敵なんですよねえ。すまーした感じがいい。
『西の魔女が死んだ』を思い出します。
魔女修行は日常の中でいくらでもできるんですよね、実は。魔法はそこらじゅうにある。そして、本はどの本も魔法の書。でもね、ひとつだけ魔法にはやってはいけないことがあるんです。
さて、ユキノさんはそれはなんだと言ったでしょう?
「それはね ー 人を操ること。だれかの心や体を、じぶんの思うように動かそうとすること。それだけはね、どんな魔女も魔法使いも、やってはいけないのよ」(P.144)
他人の心は、その人だけのもの。でも、自分の心は自分だけのもの。だから、人を変えようとするのではなく、自分の気持ちを伝えればいい。
シンプルだけれど、とても深い教えです。
よく見る、そして考える。自分の気持ちに向き合う。
魔女修行、私もしていきたいと思いました!