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書く!そして自力で成長する!


『ヘンショーさんへの手紙』(1984年)ベバリイ・クリアリー作 

 谷口由美子訳 なかいながまさ画 あかね書房

今日の一冊は、等身大の子どもを描かせたらピカイチ!のクリアリーによるこちら。

クリアリーは、ヘンリーくんシリーズやラモーナシリーズで、リアリティ文学として子どもたちから人気のある作家さん。ただ、この『ヘンショーさんの手紙』は、ヘンリーくんやラモーナのようなユーモラスさはあまりなく、地味です。それが、とってもいいんですけどね……嗚呼、やはり絶版。装丁もなあ……。ニューベリー賞も受賞していますし、図書館にはたいていあると思います。

《『ヘンショーさんへの手紙』あらすじ》

小学6年生の主人公リー・ボッツは、『犬をよろこばせる方法』の作者ボイド・ヘンショーの大ファン。作家に手紙を出すという授業がきっかけで、その後もヘンショーさんに手紙を書き続けるリーだったが、両親が離婚してしまう。新しい学校では、友だちもできず、つまらない日々を過ごしていたが、あるときからヘンショーさんから勧められた日記を書くことに。手紙と日記を通して、自力で成長していく等身大の少年の姿があざやかに描かれた物語。

等身大の子どもですからね、大人が読むと「おいおい、大丈夫?」と思うような、かなり失礼な書き方をしてたりもします(笑)。レポートのために突如質問攻めにしたり、書いた本のリストやサイン入りの写真やしおりを至急今度の金曜日まで送れ、とか。相手の都合を考えない、子どもあるある(笑)。また、それに対してヘンショーさんが、たまに返事をくれるのですが、毎回は相手していなさそうなところも、子どもに迎合してない感じでいいんだなあ。

■自力で成長する秘訣は?

さて、主人公の男の子リー。この子は、ひょうひょうとしていて、湿っぽくないところがいいんです。学校でお弁当のおかずを盗まれ続けたり、存在感がなかったり……でも悲劇のヒロイン(ヒーローか)になってない。多分いまの日本の作家が描いたら、「誰も分かってくれない。僕ってこんなにツライ。ね、きみたちもそうなんじゃない?」って感じの、悲劇に酔っているか、傷をなめ合うような物語になりがちなのではないかな。リーが、他人軸で生きていないところに感心します。

日記を書く、心の内を吐き出すって、それだけで心を落ち着かせるんですよね。自分と向き合い、自力で成長していくことにつながる。自分は心の底の底では、一体何に悲しんでいるのか。こういう書くことによって向き合う場が、真の意味での“逃げ場”になると思うんです。

でも、今の子どもたちは?

たくさんの、違った意味での逃げ場がありすぎる気がします。ネットや動画。それらは、気分転換にはなるけれど、自分と向き合うことにはつながらない=成長にはつながらない。世界は広がらない。広がらないと、次に起こるのは、周りが悪いと責め始めることなんじゃないかな、と我が子(←これねぇ)を見ていて感じる今日この頃です。自分が変わるしかないのに。変われるのは自分だけなのに。

自力で成長する秘訣、それは他人軸で生きない、自分と向き合うことなのではないかと。そして、「書くこと」はその大きな手助けになるんだな、と感じています。

■信頼できる大人の必要性

とはいえ、周りに信頼できる大人がいなければ、やさぐれちゃいますよね。人生捨てたもんじゃない、と未来に希望を見させてくれるのって、やっぱり信頼できる大人の存在なんじゃないかな。同年齢の友だちも素敵だけれど、未来に思いを馳せるときは、大人が必要だな、って思うんです。

リーの場合は、最初に存在に気づいてくれたのが用務員のフリドリーさん。このフリドリーさんの子どもとの距離感が素晴らしい!近すぎず、遠すぎず、見守るってこういうことか、と。大人はぜひ見習いたい。

リーがね、もう自暴自棄になって他の子のお弁当を落として蹴とばそうとするのですが、フリドリーさんがそっと止めるんです。校長にいいつけたってかまわないというリーに

「おまえさんがかまわんでも、わしはちがうよ。」

と言って。どうせ友だちもいないんだ!とさらに言うリーに対しては、冷静にこう言います。

「しょっちゅうしかめっ面しているやつと、だれが友だちになりたいもんかね。」

「おまえさんも、なやみを持っている。ほかのみんなだってそうさ。ちょっと気をつけていれば、わかることさ。」(P.89)

変になぐさめてないんですよね。君の気持ち分かるよ、なんて言わないんです。気にかけてくれるけれど、偽善的な同情はナシ。さらにフリドリーさんは、「おっかない顔で弁当蹴とばしても何もならない、前向きに考えなくちゃ」、と続けるのですが、それに対し、リーは「どうやって?」と聞きます。そしたら、フリドリーさんは一体なんて答えたでしょう……?

「それはおまえさんが考えることさ。」

確かに!その子自身が考えることですよね。いまの大人、子どもに答えを与えすぎ、自分の価値観を押し付けがちなのでは、と反省させられました。

大人も読みたい一冊です。

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