top of page

旅&歴史ガイドブックにもなる物語


『ペーターという名のオオカミ』(2003年)那須田淳著 小峰書店

最近、日本文学、英米文学など国でジャンル分けするのが、難しくなってきていて、文学には国境がなくなってきている、と言われています。日本人であっても、外国を舞台に、まるでその国の人が書いたかのような物語が出てきたり。移民や亡命した人が、その国から自国のことを書いたり。世界文学の時代。

今日ご紹介する那須田さんも、主人公こそ日本人にしているものの、ご自身がドイツ在住であるため、物語の舞台もドイツ。

子オオカミをめぐる逃亡劇に加え、親子間の軋轢や、ベルリンの壁が生み出した、東西ドイツの複雑な人間模様を織り込んだ、意欲的な物語です。

《『ペーターという名のオオカミ』あらすじ》

14歳のリオは親の転勤の都合で、日本に急きょ帰国しなければいけないことに納得がいかず、知り合いの家に家出をする。その下宿先で、子オオカミがこっそり飼われていることが判明。それは、研究所へ輸送途中に事故にあい、輸送車から逃げ出したオオカミの群れのうちの一匹だった。リオは、もう一人の家出少年アキラと一緒に子オオカミを群れに返すために、奔走する。

外国を舞台に書かれる面白さって、本国の人にとっては当たり前過ぎて一単語で終わってしまうようなところを、丁寧に描いているところにあると思います。

例えば、食べ物一つにしても。その国の人に対してなら、メニュー名一言で終わってしまうところが、事細かにどんな食べ物なのかが描写される。それは、美味しそうなのです(笑)。

場所にしても、例えば日本に置き換えると、日本人なら「京都」と聞けば古都のイメージが湧くけれど、外国人の人にとっては、もしかしたら「東京」との違いがよく分からないかもしれない。そんな感じで、この物語の中でも、ドイツの都市の特徴や歴史的背景が、丁寧に解説されています。

そう!まさにドイツの旅&歴史ガイドブックみたい。物語を通じて、自然と東西ドイツの複雑な歴史を勉強できてしまうんです!

教科書と違うのは、そこに生きた個人が見えてくるところ。歴史上の事実には、たくさんの人の喜び、悲しみといった複雑な感情があるんですよねえ。教科書からは見えてこないので、忘れがちだけれど、本当に大事なのはその見えにくいほう。そこから学んで、同じ過ちを繰り返さないことが、歴史を学ぶ本来の意味のような気がします。

そんなこの物語、オオカミのことも、ドイツの各所のことも、よく取材してあるなあ、といった印象で、とっても興味深いです。ただ……、個人的には、10代の少年たちがこういう会話するかなあ、と那須田さんの物語では毎回感じてしまいます(小声)。ちょっとクサイというか、ポエマー入っちゃってるというか。会話の中で、言葉で語りすぎなので、登場人物たちが、自分に酔ってるような印象を与えてしまうのかな。まあ、私が淡々としている物語に、慣れ過ぎているというのもあるのかも。

会話文も多いので、本が苦手な子でも中高生なら読みやすそうで、かなりボリュームもあるので、「読んだあ!」という満足感も得られそうです。

オオカミに国境はない!まして、人と人の心のつながりを断ち切る壁など存在しない

という帯の言葉が響きました。

ブログ「今日の一冊」
part08.png
最新記事
カテゴリー
タグから検索
まだタグはありません。
アーカイブ
bottom of page