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失われた世界観を取り戻そう


『オオカミ族の少年(クロニクル千古の闇1)』(2005年)

ミッシェル・ペイヴァー著 さくまゆみこ訳 酒井駒子絵 評論社

先住民族の世界観に惹かれる人には、たまらない!シリーズ。

よく見かけてはいたけれど、いままで手を出さなかったのはシリーズもの&戦いものが好みでなかったから。でも、今月のテーマを「オオカミ」にしてみたので、半ば仕方なく手に取ってみたら……まさに好みでした(笑)。テーマという縛りがあると、自らでは手に取らない本との出会いにゾクゾクします!

《『オオカミ族の少年』あらすじ》

紀元前4000年の森…。巨大なクマの姿の悪霊に父を殺された少年トラクは、父との誓いを果たすため、〈精霊の山〉をさがす旅に出る。道連れは、子オオカミのウルフだけ。太古の闇の時代を少年とオオカミが駆け抜ける。壮大なスケールのシリーズ第1巻 (評論社HPより転載)

舞台は、紀元前4000年の森。日本だと縄文時代に当たるのかな?壮大なスケールが描かれていますが、文章はとても平易で色々なことがシンプル。表現としては、シンプルな世界ですが、自然や動物から、読み取っている情報としては、今より複雑かもしれません。

物語の展開としては、うまく行きすぎるなと思うところもあり、大人にはちょっと物足りないかもしれませんが、大事なのは展開じゃない。そこに描かれたアニミズム的世界観。複雑な言語表現を必要とすること自体が、現代的ですからね。本来ここにあるのは、言葉に頼らない世界観なので、これでいいんだと思います。そして、シンプルだからこそ、子どもたちにも分かりやすく、伝わるものがある。

狩りをする(=命をいただく)とはどういうことなのか。どうするのが、正しいのか。

人間が支配するのではなく、人間も自然界の一部である世界。精霊もともに暮らす大地。

今の人間中心でしかない世の中こそが、悪霊に憑りつかれた世界なのでは?そんな気にさせられます。

ここで描かれているアミニズム的世界観は、文人類学的にも矛盾がなく、作者の頭の中で作りだしたものではないんです。だから真実の世界。作者のミッシェル・ペイヴァーさんは書くにあたり、さまざまな先住民族の世界観を参考にしたそうですが、その中にはアイヌも入っていました!

ところで、Amazonのレビューで、元非行少年という方が、この本を少年鑑別所の本棚で何気なく手に取り、人生が変わったと書かれていた方がいました。

人を変えてやろう、メッセージを読者に伝えたい!という思いの強すぎる本には、なんだか私は白けてしまうんです。けれど、この本の主人公トラクの生きざまを、ただただ見せてもらうことで、変われる読者もいる。これが、物語の力。私も変わりたいなあ。

続きを読むのが楽しみです。

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