top of page

イスラム教徒=テロリスト!


『さよなら、スパイダーマン』(2017年)アナベル・ピッチャー作  中野怜奈訳 偕成社 

 My Sister lives on the mantlepiece, Annabel Pitcher,2011

≪『さよなら、スパイダーマン』あらすじ≫

5年前、ジェイミーの姉、ローズは、イスラム過激派によるロンドン同時多発テロに巻きこまれて亡くなった。それ以来、父さんは酒におぼれ、母さんは家を出て行き、家族はばらばらになってしまう。10歳になったジェイミーは、ローズと双子だったもうひとりの姉、ジャスミンと父さんといっしょに、ロンドンから湖水地方に移り住む。環境が変わっても、父さんは相変わらず働かず、ローズの写真をながめてばかりいる。父さんにとっていちばんたいせつなのは、そばにいる家族ではなく、暖炉の上に置かれたローズの遺灰が入った壷なのだ。そんなやり場のない気持ちをかかえたジェイミーを救ってくれたのは、父さんがもっとも嫌うイスラム教徒の女の子、スーニャだった。

ブラウンフォード・ボウズ賞受賞作。(偕成社HPより転載)

今日の一冊はコチラ。

先日の新藤悦子さんの講演会に向けて読んだ、イスラム文化関連の児童文学のうちの一冊。

イスラム教徒=テロリスト!

なーんて、過激なタイトルをつけてみました。

このタイトル見て、「ひどっ!」と思った方多いんじゃないでしょうか?

でも、でも、もし我が子がテロで殺されたとしたら・・・?

イスラム教徒の顔も見たくないという気持ちも、分からなくもない。

が、冷静に考えると変ですよね。

キリスト教徒による連続殺人があっても、キリスト教徒=殺人鬼、なんて思う人いないのに。

■ 無知は罪!

私、忘れられない一言があるんです。学生時代留学してたときにね、イスラム教徒の友だち(マレーシア人)にこう言われたんです。

‟Ignorance is sin(無知は罪)”

衝撃的でした。この言葉がぐるぐるぐるぐる、しばらく引っかかってました。無知は‟恥ずかしい”ことではあるかもしれないけれど、罪ってそこまでー!?重すぎない!?!?って。

でも、今これだけ偏見が生み出す悲劇を見ていると、確かに無知は罪なのかも、とも思うのです。だって、知らないから偏見が生み出される。人種差別する人って、要は無知なんだもの。

この物語に出てくるお父さんも、要は無知なんです。知ろうとしないんですね。

自分の愛娘がテロの犠牲になったのだから、そこからイスラム教徒を知ろうとしろ、というのはあまりにも酷。でもね、残された自分の子を知ろうとしてたら、そこから偏見は取れて行ったはずなんです。このお父さんは、知ろうとしなかった。見ようとしなかった。

■ 極限状態で人間性が現れる

こういう物語読むとね、果たして自分は同じ状況に置かれたとき、どうなるだろう?といつも自分自身に問いかけます。大人でいられるだろうか、って。この物語の両親みたいに、未熟な大人なんじゃないか、って、読んでいてドキッとする。

幸せなとき、平和なときはいいんです。大人でいられる。でも、極限状態になったら?

誰かを責めたくなったりしない?誰かを責め続けていたら、正面から物事に向き合わなくてすむから、そうしちゃうんじゃない?

もしくは、責め続けなければ、死んだ子どもに申し訳ない気がして、罪悪感から悲しみから抜け出すことをしようとしないんじゃない?

極限状態になったとき、人は人間性が現れるなあ、って。

ロバート・ウェストールの『海辺の王国』を読んだときも同じことを思った。

誰かを責めていたら、見えるものも見えなくなってしまう。あるはずの幸せも取りこぼしてしまう。相手じゃない、状況じゃない、世界の見え方は、自分次第なんだな。

■ 不幸に酔わない

ところで、この物語がいいなあ、と思うのは、10歳の主人公の語り口で、軽い調子で進んで行くから。人によっては、軽すぎると感じるかもしれない。不謹慎とすら、思う人もいるかもしれない。

でもね、不幸に酔ってたって仕方ないんです。軽すぎない?と思った人はこの少年から見たら偽善者かも。キツイ言い方かもしれないけれど、いつまでも悲しみに暮れていたら、すぐそばのもっとケアしてあげなければいけないこと(子ども)に気づけないんです。「いま、ここ」に目を向けないと。

不幸でいなければいけないんじゃないか、と思ったら読んだほうがいいのが、アドラーの教えの『幸せになる勇気』。

「いま、ここ」に目を向けないとどうなるのか。失ったものばかりに目を向けないこと、そんなことも教えられるのが、『さよなら、スパイダーマン』です。

軽い語り口なので、本が苦手な子でもスイスイ読み進められるのもイイ!小学校高学年からおすすめです。

■ 異質なものとの出会いが扉を開く!

最後に。

主人公の少年の目を開いてくれたのは、異文化との出会いでした。異質なものとの出会いが、新しい世界を見せてくれ、自分自身を見つめ直すことにつながる。

そして、弱いままの未熟なままの親をも受け入れられるようになっていくのです。

そんなこと言ったって、異文化に出会う機会を持てない・・・?

読書って、異質なものに出会うきっかけをくれます。買っても、たったの数千円。図書館でなら無料で♪どんどん、異質なものと出会っていきたいです。

ブログ「今日の一冊」
part08.png
最新記事
カテゴリー
タグから検索
まだタグはありません。
アーカイブ
bottom of page