思春期男子が夢中になった意外なものとは?
『園芸少年』(2009年)魚住直子作 講談社
『園芸』をテーマにブックリストを作成してほしい!というご依頼があったので、園芸ものを読んでいた中で知った一冊を今日はご紹介。
とても読みやすい高校の部活もの。部活ものといえば、スポーツが多い中で、園芸部は珍しい!
漫画にもなっているので、もっとドラマチックだったり、青春ものぽかったりするのかな、と思っていたのですが、いい意味で地味(←褒め言葉です!)な物語でした。変に感動させてやろうとか力む感じがなくて、とっても自然。
表紙がなあ……もうちょっと若い子が手に取りそうだとよいなと思うのですが。
ちなみに漫画版は、これまた印象が全然違う感じ。
主人公、そんなイケメンじゃないと思われる(笑)。
■自分で発見するから感動する
主人公の篠崎は、高校生活をそつなく過ごそうとしている普通の男子。中学時代は馬鹿にされないために、好きでもない運動系の部活に一応入っていたけれど、高校は帰宅部希望。すぐに大学受験があるから、帰宅部は退屈かもしれないけれど、勉強して適当に生き抜きするだけで三年なんてすぐに過ぎるだろう、って。
へえ、そうなんだあ!そういう感じなの?まず、そこにびっくりしました。別にここは作者の伝えたいところではないのですが、私が勝手に引っかかった部分。
馬鹿にされないために、自分が好きでもない部活入るだなんて。中高合わせて長―い6年間、自分のやりたいことをやるのではなく、どうやったら穏便に過ごせるかだけで、ただただ過ごすんだ。でも、こういう子案外多いのかもしれません。出る杭は打たれるし、同調しないといじめのターゲットに合うから、他人の目で自分の行動を決める。そりゃ、自分が何したいのかワカラナイ大人増えるよなあ。
そんな篠崎が偶然が重なって知り合いになるのが、元ヤンキーで、今も見た目はヤンキーのままの大和田。この二人が運動部のしつこい勧誘から逃げようと、成り行きで「園芸部に入るんで!」と言ったことから、本当に園芸部が始まるのです。
まあ、この二人がTHE☆男子で、素直でかわいいのですよ(←すっかり母親目線)。
ある日、紙コップの残りの水を植木にかけたらその葉っぱだけが元気になっているのを発見し、「すげ」となるのです。で、ちょっと面白くなってきちゃうんですね。
単純だなあ(笑)、愛おしいなあ男子。すみません、うち男子しかいないもので。
小学校の頃も、さんざ植物の成長観察とかやらされただろうに。なーんにも記憶残ってないことが分かります。ああ、男子(笑)。
いや、男子だけに限らないか。授業で一斉に観察させられて、そこから感動する子ってほとんどいないのではないでしょうか。
自分で思いがけず発見したから、「すげ」となった。一方的に与える教育、やっぱり考えちゃうなあ。
そこにもう一人、奇妙な仲間が加わります。段ボール箱をかぶって相談室登校する、庄司。段ボールかぶるくらいの勇気ある子は、現実にはあまりいないかもしれないけれど、相談室登校、保健室登校、図書室登校の子は結構いるのではないでしょうか。この三人の友情も押しつけがましくなくて、なかなかいいのです。
■自分が変わると世界が変わる
さてさて、花壇作りに夢中になる園芸部ですが、花壇によって入り口の雰囲気が良くなったことに気づかない人たち、反響のなさにちょっとガッカリするのです。
でも、篠崎は自分もそういううちの一人だったんだよなあ、ってちゃあんと気付いている。そして、今は自分の変化のほうが面白い、とも。知っている花が増えると家の近所や通学途中の道路に、急に花が増えたように感じたり、よく手入れされた鉢や花壇を見ると嬉しくなったり。今までも同じものを見ていたのに、風景が変わって見える。
これ、分かるなあ!以前、薬草のワークショップというのに参加したことがあるんですね。それを受ける前と後では世界が変わって見えましたもん。以前は、ただ「ああ緑キレイ」だったのが、その緑の一つ一つが急に個性を持って迫ってくるんです。「ああ、オオバコは色々いい薬になる。アカザにシロザ、君たち美味しいよねえ」って(笑)。同じ景色なのに、本当に世界が変わって見えた。それは、驚きの体験でした。
とかく人間関係の問題だけになりがちな学園もので、物言わぬ植物が、知らず知らずのうちに息苦しさから解放してくれる、そんな物語でした。