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失敗の先に


『太陽の戦士』(2005年)ローズマリ・サトクリフ作 猪熊葉子訳 岩波書店 ※ハードカバー版は1968年

時々、安易に感想を言いたくない本に出会います。そのくせ、誰かと感動を共有したい。サトクリフの物語は、いつもそんな感じで、なかなか感想が書けないんです。

言葉にしてしまうと、陳腐になってしまうような気がして、言語化したくない。ただただ余韻に浸っていたい、そんな物語。余韻がすごいんです!

思うように紹介できなくて歯がゆいけれど、それでもこうやって紹介するのは、やっぱり多くの人に出会ってもらいたいから。もう、とにかく読んでください(笑)。

《『太陽の戦士』あらすじ》

片腕のきかぬドレムは、愛犬ノドジロや親友にささえられ、一人前の戦士になるためのきびしい試練に立ちむかう。青銅器時代を背景に、少年の挫折と成長を描いた、サトクリフの代表作。中学生以上。(BOOKデータベースより転載)

この表紙じゃなあ。サトクリフを既に知っている人、もしくは児童文学好きで、この手の表紙にハズレはないと分かってる人しか、手に取らないだろうなあ。読み終えると、さすがの表紙&挿絵だな、と思うのですが、まずは手に取ってもらえないと……ですからね、難しいです。

サトクリフ自身が、足に障害があり、車椅子生活だったこともあってか、主人公も何かしら身体が不自由であることが多い。

今回の主人公ドレムは、片腕が不自由で、戦士になるには絶望的と思われていた少年。それでも、戦士になる夢を諦めきれずに、日々鍛錬に励み、大人になるためのイニシエーションとしてのオオカミ殺しに挑戦するんです。

負けず嫌いで、勇敢な主人公。若さゆえの驕りや焦り、葛藤もある。そして、失敗もするし、それゆえ卑屈になる時もある。それは、現代の我々にも十分通じるものであり、深い共感を覚えます。うならされるのは、等身大なのだけれど、同時に現代の我々が失ってしまった、本当の意味でのプライドのようなもの、崇高さがあるんですよねえ。ハッとさせられるんです。

オオカミとの対決の場面もいい。お互い、楽しみや残虐な心を持っての戦いじゃないんですね。両者間には、尊敬の念が流れている気がします。当時のハンターは無駄な狩りはしない。それも、グッときます。

先史時代のことを、ここまでリアリティを持たせて描けるサトクリフの世界。

読んだ後には、心に説明しがたい「何か」を残してくれる物語です。ぜひ。

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