ディケンズがお好きなら
『その歌声は天にあふれる』(2005年)ジャミラ・ガヴィン作
野の水生訳 酒井駒子絵 徳間書店
クリスマスツリーを三男(5歳)にせがまれて、ようやくツリーを出しました。飾りつけは全部三男任せ♪
町中でもクリスマスキャロルが聞こえてきてる頃でしょうか。『クリスマスキャロル』といえばディケンズ。古典名作ですが、今読んでも面白い!
そんなディケンズを彷彿とさせる重厚な物語、と言われた物語を今日はご紹介。
まるで古典名作を読んでいるかのようで、一気読み!舞台は18世紀の英国ですが、書かれたのは2000年です(日本語訳は2005年)。古典じゃないです(笑)。
《『その歌声は天にあふれる』あらすじ》
舞台は十八世紀の英国。望まれない赤ん坊をロンドンにある「コーラム養育院」に連れていく、慈善の仲買人として知られていた行商人オーティスには、実は恐ろしい裏の顔があった。残忍な仲買人の父と汚れなき魂を持つ息子ミーシャク、彼が天使と慕う少女メリッサ、過酷な運命の下、夢を追う少年たち… 様々な人物が織りなす愛と友情、絆と葛藤。物語を彩る音楽の描写が美しい余韻を残す、痛ましくも力強い群像劇!(本書カバーより)
さて、原書タイトルは“Coram Boy”。18世紀の英国には、コーラム人と呼ばれる、捨て子を集めてまわる人がいたそうです。コーラムというのは、当時設立されたばかりの、いまでいう児童養護施設のようなところ。貧しさゆえに、なくなく子どもをコーラム人に託す人々……けれど、コーラム養育院のほうでは、そんな人雇っていなかったんですね。要は、詐欺です、詐欺!でも、当時はインターネットもないし、そんな情報は分からない。当時、動物以下のように扱われていた子どもたち。暗い暗い物語ですが、複雑な人間関係や、王道の展開は、先が読めたとしても、やっぱり面白かったなあ。
ウィットブレッド児童文学賞受賞、カーネギー賞ノミネートされ、ロンドンナショナルシアターで舞台化されたそうです。音楽もキーになってくるので、これは舞台に向いてますね。見たいなあ。個人的には悪魔に魂を売ったかのような行商人オーティスが、それでも自分の息子ミーシャクはなんだか見捨てられないところが、人間らしくて好き。ミーシャクがメリッサを慕う様子は、『ノートルダムの鐘』ともちょっと重なります。
英国のような国でも、子どもの人権が認められたのって、そんなに昔からじゃないんですよね。近代教育の祖と呼ばれるコメニウスが1658年に初めての絵入り百科事典『世界図絵』を発表して、子どもに対する性悪説を性善説に変えてから、その考え方が一般化するまでに200年かかったと言われています。そんな視点から読んでも面白いです。