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現代版魔女の家系


『緑の霧』(2017年)キャサリン・ヴァン・クリーヴ作 

 三辺律子訳 ほるぷ出版 

朝晩は、少しずつ涼しくなってきました。涼しくなると、チョコレートと紅茶をいただきたくなる私です(笑)。

というわけで、今日の一冊は、なんとチョコレート味のルバーブ!が育つという、不思議な農園が舞台の物語です。チョコレート味ルバーブ自体は、全然物語の鍵を握らないのだけれど(笑)。

《『緑の霧』あらすじ》

動植物と話せるポリーは11歳。毎週月曜日の午後1時になると雨が降る不思議なルバーブ農園に家族で暮らしている。ところが、ある日おばあちゃんが亡くなってから、不気味な緑の霧が出現し、雨は降らず、農園の空中ブランコは事故を起こし、兄は原因不明の病で生死をさまようように・・・。そんな中、大好きで信頼していたエディス伯母さんが、実は農園の売却を進めていることが判明。ポリーに農園は救えるのか、家族は救えるのか。雨はどうやったら降らせることができるのか。

■現代版魔女物語

舞台は現代。農園や一般開放のミニ遊園地のような施設持ってるおうちが舞台で、邸宅もお城のようだったりするので、時代感覚はあまりないかも。スマホとかが出てきてやっと、「あ、現代だったのね」って気付くくらい。

現代に魔女がいるとしたら、こんな風に普通の人(いや、普通じゃない農園持ちだけれど)の中にちょっと紛れている、ちょっとだけ普通じゃない能力を持った人たちなんだろうな。

文中に魔法という言葉は出てきても、魔女という言葉は一切出てこないんです。魔女って、こんな風に、ちょっと人と違った特徴(この物語の場合は、曲がった指)を持ってる人で、自分が魔女だなんていう自覚ない人もいるのかも。

私たちが想像しがちな魔女修行はないけれど、自分で謎を見つけ、そのヒントを見つけ、解決していくところは、一人の少女の成長物語として楽しめます。

ただ……、主人公の女の子があまりにもウジウジしてるので、個人的にはイラっときて、あまり感情移入はできませんでした。

言葉を音声で話すのではなく、文字を書くことによってコミュニケーションを伝える虫の登場などは、面白い。でも、巨大化させる必要はなかったんじゃないか、普通の虫のほうが「ひょっとしたらこういうことあるかも?」と思わせてくれたのでは、とそこが残念。

■ 伝統と自由意志の狭間で

さて、この物語の中で、ミステリアスな存在なのが、エディス伯母さん。ポリーにも愛情をたっぷり注いでくれて、一番の理解者。それなのに、なんと大事な農園を売ろうとしているんです!!!なぜ?ポリーにも読者にもそこが理解できなくて、謎なのです。

おばさんは悪者なの?敵なの?なぜ???

※ 以下、未読の方はネタバレ注意

伯母さんの意図が読めなくて、愛情は本物?と疑いたくもなったのですが、本物でした。

伯母さんは、キャリアウーマンで、自由意志で自分の人生を作ってきたという自負があるんですね。だから、彼女にとって、農園を受け継いでいかなければならない、という伝統は‟縛り”でしかなかったんです。自分の未来の可能性を閉ざす縛り。

かわいい姪っ子にも、伝統に縛られてほしくない、自分の手で未来を切り開いていってほしい、それがおばさんの真意だった。

けれど、ポリーはおばさんとは違い、心から農園を愛し、農園こそが彼女の生きる道だった。おばさんは、ポリーのポテンシャルを信じていたので、農園で彼女の人生が終わるのが不憫だと思ったのでしょう。そこから、ズレていった。

う~ん、おばさんの気持ちも分かるからこそ、複雑。

伝統は邪魔?受け継いだ才能も時には弊害?

ある人たちにとっては、そう。

でも、そうじゃない人たちもいる。

こんな道もあるよ、ともっと広い世界を見せてあげることは大事かもしれないけれど、その道に行くようしむけるのは、やっぱり違うんだな。どんなにそれが、その子のため、と思っても。

何が自由か、何が幸せかは、結局本人が決めることなんだな。

親や先生、私たち大人も子どもに対して、同じようなことをしていないかな?そう自問させられました。

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