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自分次第で意義ある名前に


『バレエシューズ』(2019年)ノエル・ストレトフィールド作 

 朽木祥訳 福音館書店

今日の一冊は、装丁も美しいコチラ。

長く絶版されていた古典名作の新訳による復刊です。海外では80年以上も愛され続けているロングセラーなんだそう。

教文館のほうからも、2018年に中村妙子さんの新訳が出ていて、中村妙子さんの訳も好きなので読んでみたいのですが、そちらはまだ未読。大きな違いは、中村さんのほうが抄訳、朽木さんのほうが完訳版という点。

先日、銀座教文館ナルニア国での朽木祥さんの講演会で、こちらの物語の魅力をたっぷり聞いてきました!

《『バレエシューズ』あらすじ》

1930年代のロンドン。身寄りのない三人の赤ちゃんがある学者に引き取られます。姉妹となった三人は「フォシル」という姓を名乗り、その名を歴史に残そうと誓い合うのでした。そして家計を助けるべく舞台芸術学校に入学し、自立への道を歩み始めます……。女優志望の美しいポーリィン、舞台が嫌いで本当は飛行士になりたいペトローヴァ、バレエの才能を持ち踊ることが大好きなポゥジー。個性あふれる三姉妹が、オーディションや公演などの関門に悩み、助け合って乗り越えていく様子をユーモアたっぷりに描く成長物語(出版社HPより)

■ご都合主義?いいえ、自助努力です!

この物語、とおっても素敵な大人たちが支えてくれます。みんながみんなこんないい人?って確かに思うかも。ゆえに、うまく行きすぎる、ご都合主義だ、っていう感想を持つ方もいるそうなのですが、こちら典型的なおとぎ話のパターンなんです。みんな大好き孤児が出てきて(笑)、困難を乗り越えるお話。だから、これでいい。

ただ、この物語の新しさは、イギリスの中流階級(働かずとも旅に出られる階級)の子どもが、生活のために自立しようとする点にあった、といいます。自助努力の元に幸せを勝ち取る点が新しく、そこが単なるシンデレラストーリーとは一線を画しているんだそう。

三姉妹の親代わりのシルヴィアは、お金に困ったとき家に下宿人を置くことにするのですが、その人たちがまあ揃いも揃っていい人ばかりなんです!ほっこりします。朽木さんのお話の中で、印象的だったのは、子どもにとって大事なのは「愛情よりも安心感」という言葉でした。愛情っていうとなんか身構えちゃう人もいるかと思うのですが、周りの大人たちに余裕があって安心感を子どもに与えてあげることができたなら、もうそれでOKなんですね。そういう大人になりたいなあ。

例えばね、子どもたちを育てる乳母のナナが3人目の赤ちゃんが届いたときにこんなことを言うんです。

「ポゥジー!花束ちゃんですって!なんともふざけた名前ですこと。上のふたりは聖人にちなんだ格別によい名前をいただいたのにねえ」

 ナナはバカにして鼻を鳴らしましたが、赤ちゃんが傷ついてはいけないので「このかわいい子羊ちゃんめ」と付け足しました。(P.20)

赤ちゃんが言葉が理解できないだなんてとんでもない!この付け足しで、私はいっぺんにナナのファンになってしまいました!

■人生は自分の受け取り方次第

この物語は、人生は自分の受け取り方次第ということも、それほど教訓的にではなく教えてくれます。

旅好きでいつも不在の家主のガムは、お土産として赤ちゃんたちを連れ帰ってくるんです。人によってはまるで人間をモノのように軽んじてる!と感じる人もいるかも。血のつながりがない三人の女の子がいきなり三姉妹として育てられて、憐れだ、って受け取ることもできるんです。

でもねえ、下宿人のジェイクス先生が彼女たちにかけた言葉は次の通り。

「あなたのことが、ほんとうにうらやましいわ。そんないきさつでフォシルと名乗ることになったり、思いもかけないめぐり合わせで姉妹ができたりなんて、胸がおどるようなことだわ。三人で、フォシルという名前をとても重要で意義あるものにできるかもしれませんよ。それに、もしそうできたなら、ぜんぶ、自分たちの手柄になるのよ。だけど、たとえば、わたしがジェイクスという名を上げたとしても、世の人々は、祖父譲りだとか、おかげだとか言うでしょうからね」(P.51)

彼女たちを引き取ったガム(いつも旅で不在だけど)は化石収拾が趣味だったので、三姉妹は自分たちで名字をフォシル(化石)に決めたのです。

そして、ジェイクス先生の言葉を聞いて嬉しくなり、三姉妹は毎年誕生日になると自分たちの名前が歴史の本にのるよう努力することを誓い合うんですね。なんだかワクワクして、とってもいい!リアリズム重視の暗くなりがちな物語で疲れてしまっているとき、こういう古典的な物語にふれると元気が出ます。

ちなみに、大人が読むときは、時代背景も分かるとより面白く読めそうです。以前もおススメしたこちら『不機嫌なメアリー・ポピンズ』(そのときのレビューはコチラ)なんかを読むと、イギリスの階級のことがよく分かって面白いです。なぜ、お金に困っても旅を続けられるのか、使用人や乳母を解雇しないのかetc.etc。

その他にも、作者のノエル自身も舞台女優だったそうで、舞台と映画の違いなど、その辺も面白いです。私は常に『ガラスの仮面』を思い出しながら読んでました(笑)。

もう一つ、この物語の大きな魅力は、ガールズトークの臨場感。現代っ子でも楽しめることでしょう。

分厚い本ですが(でも字は大きめ)、さすが朽木さんの訳。「もしノエルが日本語で書いたら」ということを常に頭に置いてリズム感などを大事にし、音律を整える作業に打ち込まれたそうで、スラスラ入ってきます。これって、本当に大事なことなんですよねえ。翻訳の直訳的な訳し方に引っかかってしまって、物語の世界に入りこめないなんてことも実際ありますもん。

古い物語ですが、現代っ子でも楽しめる物語です。

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