なぜ世界は丸いの?
『魔法の輪』(1997年)スザンナ・タマーロ作 高畠恵美子訳
あすなろ書房
今日の一冊は、原マスミさんによる不気味な表紙絵が、ピッタリな内容のコチラ。見づらいかもしれませんが、たくさんの積まれたテレビの中の人たちが、ムンクの叫びみたいになっています。
《『魔法の輪』あらすじ》
幸せって?「魔法の輪」の中で混血オオカミに育てられた少年リック。楽園を迫われたリックは、生まれてはじめて「孤独」を知り、「幸せとはなにか」を模索しはじめる。シリアスとユーモアが同居したイタリア流奇想天外ストーリー。(BOOKデータベースより転載)
メディアに洗脳されている社会を風刺した物語です。さらっと読める寓話なのですが、これは大人が読みたいかなー。もちろん、子どもと読んで、メディアに踊らされないためにはどうすればよいのか、一緒に考えるのもいい。けれど、子どもより、まず大人が気づきたい現状。だって、メディアを作っているのは子どもじゃない、大人なんだから。
ここに出てくる「魔法の輪」とは、公園内にある手付かずの自然が残っている動物たちの楽園のこと。そこでは、天敵同士も仲良く暮らしている、というユートピアなのですが、不穏な噂が流れ始めると、愚かな人間たちは、次々と「魔法の輪」が危険だと騒ぎ始めるんですね。こうやって、読書を通じて俯瞰すると、それはそれは滑稽な光景なのですが、実際の私たちはどうでしょう?
人って、悪い噂のほうを信じやすいんですよね。不安だから、人に話して不安を共有し、増長させる。「魔法の輪」が危険だと大騒ぎしている光景は、残念ながら、とても現実的のように感じます。
「魔法の輪」をつぶしたいと思っている人たちの先頭に立っているのは、そこから利益を得る人たち。ディベロッパーなんかですなあ。誇張して書かれてはいるけれど、これ現実世界で起こっていることですよね。
清潔で規律ある世界
腹はいっぱい頭は空っぽ
この物語の中で、テレビからしょっちゅう流れてくるスローガンが上記なのですが、この世界を牛耳ってる人たちは心の中では本当にこう思ってそう。だって、頭空っぽだったら、思考停止で支配しやすいですもんね。洗脳されて、ある場所に向かって行進する子どもたちの長い行列は、ハーメルンの笛吹き状態。その子たちの目は、みーんな四角なんです。四角くて、動かなくて催眠状態。
ムカムカしながら読んでいたのですが、寓話なので、「魔法の輪」を消滅させた人たちの反逆方法には笑ってしまうし、最後は気持ちの良いハッピーエンドなのは、児童文学ならでは。
なぜ私たちの目は丸いのか、世界は丸いのか、そうか!そうよねえ、って思わせてくれる寓話でした。