生きる意味、人生の意味を問う
『マリアからの手紙』(1995年)グレーテリース・ホルム作
伊佐山真実訳 徳間書店
これは良いYA(ヤングアダルトと呼ばれる中高生向きの分野)に出会えました!
世間では、キミスイ(『君の膵臓が食べたい』)が一時期話題でしたが、似たようなストーリーとしては私なら断然こちらを推すんだけどなあ!
登場人物が悲劇に酔っていないところがよいし、読者に対しても「どう?かわいそうでしょ?感情揺さぶられるでしょ?泣けるでしょ?」って迫ってないところに好感が持てました!(←上から目線?)。感動ポルノじゃない。
《『マリアからの手紙』あらすじ》
去年まで、マリアはスポーツが大好きだった。でも今は、重い心臓病にかかってしまい、心臓移植しか直す方法がないと言われている。もし時間が限られているなら、むだにはしたくない。一番大切なことって、なんだろう…。神経質なママ、無口なパパ、可愛い赤ちゃんの妹。親友たちや尊敬する先生、そして、「トーアのハンマー」のペンダントをくれた、「本当の恋の相手」マークス。さまざまな人たちの間で、考え、悩み、成長していく十四歳の女の子の輝きを、まっすぐに描き出す、ヨーロッパで話題の本。(BOOKデータベースより転載)
本って、感想を言いたくない、自分の中であたためたいタイプの本と、誰かと共有して論じ合いたいタイプに分かれると思うのですが、こちらは後者。
主人公の親たちは、権力に対抗してきた60年代の元若者たち。親と同じ年代の担任の先生は社会派で、思想を押し付けたという理由で解雇されてしまったり、難民問題に性の目覚め……色んなテーマが盛り込まれていて、この物語を教材にして論じ合いたくなります。
物語内の授業での哲学的なディスカッションも面白い。「永遠とは」というテーマで、良いことと悪いことは何か、本質的な部分について話し合ったり。マリアの初彼氏になるマークスも魅力的。彼はいわゆる不良、問題児とレッテルを貼られている子なのですが、彼の話を聞くと、問題児ってなんだろうと考えさせられたりもします。
作者のグレーテリース・ホルムは元新聞記者で、ジャーナリスト養成学校の講師を努めたり、討論集や、学校で使用する教本なども数多く執筆されているんですね。なるほど、だからこういう内容になるんだなあ。
でも、やっぱり……絶版なんですよねえ(涙)。図書館で探してみてください。Amazonマーケットプレイスでも1円で売っています(安すぎて、悲しい)。
ところで、物語は、全てマリアが妹のカツリーナに宛て手紙で語るという形を取られていまず。妹が11歳になって理解できるようになったときに渡してくれ、と。手紙と言っても、こちらはPCで打っていて、ディスクに保存したものという点が現代的。最後に彼女は家出をするのですが、そのときに両親に宛てた、心からの叫びが響きます。
私は、死ぬのなんて、ちっともこわくないんです。自分は海の中のひと雫にすぎないって考えることに、もう慣れてしまったのです。そんなことより、思いやりのない世界で、意味もわからずに生きて行くほうが、こわい。(P.196)
生きることの意味が分からないのなら、新しい心臓をもらっても仕方がないというのです。人はみないつか死ぬ。生き続けることよりも、いかに生きるか。それに長さは関係ない。
マリアの心からの叫び、色んな人に届くといいな。