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メアリー・ポピンズは魔女なのか


『不機嫌なメアリー・ポピンズ

 - イギリス小説と映画から読み解く「階級」』(2005年)

 新井潤美著 平凡社新書

メアリー・ポピンズは果たして魔女なのか?

先月の『魔女』がテーマだったとき、ふと思いました。確かにメアリー・ポピンズは魔法は使うし、異世界に連れて行ってはくれるけれど、私の中では、魔女とはなんか違うという感覚だったんですね。メアリー・ポピンズって一体何者だったんでしょう?

ところで、メリー・ポピンズとメアリー・ポピンズは全くの別物として好きです。前者のメリーは、ジュリー・アンドリュースが演じた映画の中、後者のメアリーは本。

映画は歌が好きだったのですが、原作メアリーのあのツンとすました感じ、スノビッシュな感じが全然なくて、物足りないんですよね。一応お高くとまっている風にはしているのですが、どうしても優しさが滲み出てしまっている。今日ご紹介する『不機嫌なメアリー・ポピンズ』は、その辺のところも説明してくれていて、とても興味深い一冊です。

■ 話し方で階級が分かるイギリス社会

メアリー・ポピンズって、当時の階級社会のイギリスの中では、労働者階級だったんですね。いつも無愛想で不機嫌、これって当時の典型的なナニー(乳母)のイメージだったのです。

新井さんによると、イギリスには、金持ちの子どもの世話をする係として、ガヴァナスとナニーがいるのですが、この二つは似たようでいて決定的な違いがある。それは、階級。ガヴァナスが使用人ではなく、雇い主とそう変わらぬ階級出身の「淑女」であり、高い教育を受けているのに対し、ナニーはUpper servantと呼ばれる高い位置にいながらも、しょせんは使用人なのです。

ところが、映画の中のジュリー・アンドリュース演じるメリーは、話す英語も訛りのないReceived Pronunciation(通称PR)と呼ばれるもので、「有能なガヴァナス」的なイメージになっているそうです。ナニーのはずなのに。なーるほど!

ナニーは、子供が家庭教師をつけられるか、学校に行くようになるまで、子供部屋では、絶対的権力を持つ支配者といってもいい存在。しかし、雇い主と違う階級出身ということで、ナニーと子供たちの関係は複雑なものとなっていく。ナニーの言葉づかいや嗜好から、子供たちはだんだんと自分たちとの階級の違いに気づき、ある日自分たちはナニーから離れなければならないということを理解していく。あらゆる点でよいナニーの条件を満たしていながら、階級というやっかいな問題を超越する魔法の要素をメアリー・ポピンズは持っており、いわば魔法によって階級を超えたとも言える。(P.91)

メアリー・ポピンズのラストで子どもたちが、今回こそは永遠の別れと悟るのは、こういうことだったんですね。

■ メアリー・ポピンズが好きな子=従順な子?

ところで、私自身はこのシリーズ、大好きだったのですが、評価は分かれているんですね。知らなかった。ただ、自分自身が子どもの頃、背景も何も知らずに純粋に楽しんだ物語というものに対しては、どんな論評も響きません(笑)。思い入れがなければ、逆にさまざまな解説に参戦していたのかもしれませんが。

もうね、ハードカバーのあのページをめくったときの、ワクワク感!忘れられません。『公園のメアリー・ポピンズ』なんかは、ハードカバー版のみ見開きに公園の地図があるんですよ。物語への入り口として、ワクワクでした!

さて、メアリー・ポピンズに関しては、上野瞭さん、清水真砂子さん、佐藤宗子さんなどが論じられていますが、批判のうちの一つに、メアリー・ポピンズが、ジェインとマイケルを容赦なく叱り、褒めない甘やかさない、常にいい子であるように指図する、という点があげられます。だから、ざーっくり言うと、この物語を楽しめる子は、そういうことに疑問を持たない、いい子ちゃんなのでは? という仮説。

うーん、どうなんでしょうね?当時の私は、メアリー・ポピンズの人柄自体は、たいして好きではありませんでした。ツンとしてお高くとまってるし、それこそいつも指図ばかりするし、私だったらお近づきになりたくないなあ、って。ちなみに、ジェインとマイケルもあまり自分を持っていない、軸なしな感じがして、好きではありませんでした。それでも、物語全体は大好きだったのは、メアリー・ポピンズが見せてくれる世界に魅了されたから。登場人物には誰一人として感情移入できなかったけれど、登場人物に特に共感したいとか、期待もしてなかったんですね。本を開けば、一歩退いた形で面白い世界を見せてもらえるのが、ただただ楽しくてたまらなかった。イギリスの空気、異文化を感じるのが好きだった。

いい子ということに関しては、私自身は、とっても育てやすいいい子だったと思います。

でも、それは理解ある良き大人に囲まれて育っていたからであり、疑問を持つ状況にいなかったからです。従順だから大人に疑問を感じないのではなく、少しでも、大人に偽善を感じたら、ものすごく噛みついていました。だから、環境次第では狂犬だったと思います(笑)。

メアリー・ポピンズは果たして魔女だったのか。魔女失格、魔女より妖精寄り、色々言われてますが、私にとって、メアリー・ポピンズはメアリー・ポピンズ。独立した存在で、カテゴライズなんかされないんだなあ、というところに落ち着きました。

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