詩情豊かに味わう生と死
『光草 ストラリスコ』(1998年)ロベルト・ピウミーニ作
長野徹訳 小峰書店
LO STRALISCO by Roberto Piumini,1993
今日の一冊はコチラ。静謐で美しいイタリアの児童文学です。
たまにこういう詩情豊かで、少し哲学的でもある本に出会うと、ストーリーの筋自体に感銘を受けるというよりも、心がなんだか洗われたような気持ちになります。
この物語は、好みがかなり分かれるとは思うのですが、ポール・ギャリコの『スノーグース』が好きな人は好きなんじゃないかな。
人に贈りたくなる、そんな一冊。まあ、お決まりのごとく絶版なわけですが・・・。
短い物語で難しい言葉は出てきませんが、響くのは中学生以上からかな。
《『光草 ストラリスコ』あらすじ》
舞台はいつの時代かわからないトルコの国。
日の光や外気に触れることのできない奇病に侵されている11歳の少年マドゥレール。北の地方を治める領主の父が、誕生日に連れてきたのは、一人の絵描きサクマットだった。
その日から、二人は想像力を駆使して、壁一面に絵を描き始める。高く連なる山並み、羊が群れる谷間、戦のただなかにある町、大海原を進む海賊船、花が咲き乱れチョウが飛び交う緑の草原・・・・・・。光を浴びることができないマドゥレールのためにサクマットが描いたのは、暗闇の中で、あたり一面に何百という細い穂が金色の光を放って輝く‟光草“だった。
絵ってすごいですよね。一つの場面にさまざまな物語が描かれている。眺めていると、いくつもいくつもの物語が立ち上がってくるんです。
言語は国によって違い、翻訳通訳を必要とするけれど、音楽や絵は世界共通言語、という言葉を思い出しました。
この二人の何がすごいってね、描いておしまい!じゃないんです。時の流れに伴う変化を描きこみ、絵の中の世界が発展していくんですね。生きてる世界なんです。壁に命が吹き込まれていくんです。
想像力豊かな二人ですが、それでもマドゥレールは戸惑いもありました。そんなとき、そっと背中を押してくれるサクマットがいいんですよねえ。
「まちがったってかまわないんだよ、マドゥレール。目をよく見ひらいて、まちがいに気づけば十分なのさ。形は別の形を描いて消せるし、色には別の路を重ねることができる。
でも、いまは描きはじめなきゃ。はじめないことには、正しいことも、まちがったこともできないよ。」(P.49)
本当に。失敗を恐れてはじめないことには、何も生まれない。また、報酬に関して述べるサクマットの言葉も好きです。
「絵かきには、食べ物を味わう口はひとつしかありませんし、満たす腹もひとつしかないと申しあげましょう。大地や樹々や空の光の変化を久しく見てきた者は、それ以外の富の必要を感じないのです」(P.44)
凛とした生き方を教えてくれる、美しい一冊です。