なぜ知ることが大事なの?
『トライフル トライアングル』(2008年)岡田依世子作
うめだゆみ絵 新日本出版社
ドラマ『おっさんずラブ』旋風がいまだ止まない中、Facebookの『大人のための児童文学』コミュニティ上で、『メリッサと秘密のジョージ』を紹介したところ、コメント欄でオススメしていただいたコチラを読んでみました。
LGBT(レズ、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)の中でも、トランスジェンダー(性同一性障害)を取り扱ったこちらの物語。男の子らしさって?女の子らしさって?自分らしく生きるってなんなんだろう、ということを考えさせてくれます。
重いテーマだけれど、とっても読みやすいので、ふと立ち止まって考えてみるのにおすすめ。
【『トライフル トライアングル』あらすじ】
健と愛は、性格が対照的な双子の兄妹。柔道教室に通う愛は男勝りで、ビーズ織りに夢中な健のことを、からかい半分に「オカマ」と呼ぶ。
そんな二人の住むマンションの1Fに新しくテナントで入って来た喫茶店のオーナー静さんは、元男性だという女の人。静さんと仲良くなるうちに、二人は自分らしさについて考えさせられていく。そんな中事件が起こって・・・。
偏見はいけません、とか言葉で言われるより、物語で見せてもらったほうがストンと腑に落ちます。
■ 女らしさ男らしさって?
元男性だった静さんのことをすーっと受け入れられたのは愛のほう。健はどう対応していいかに戸惑います。けれど、その愛が、一方で、健の女子的な趣味のことは馬鹿にするという矛盾。柔道が強くて、スポーツ全般が得意な愛がカッコイイと言われると、健はこういうのです。
「女が男みたいなことをすると格好よくて、その反対は格好悪いなんて不公平だ」(P.96)
確かに。うちも次男は結構な乙女男子で、薔薇やジュエリー類に夢中になったり、ビーズでアクセサリー作りも夢中になって、クラスの女子たちから注文取ってる(←商魂たくましい 笑)時期もありました。でもねえ、だからか、ばかにされないため?次男はお口がすんごい悪いんです。ケンカもめっぽう強いらしく、絶対にバカにさせないんだとか。
うちみたいなケースは心配ないけれど、もし気弱な男の子だったら?
個人的には応援するけれど、公になってバカにされたらかわいそうだから、そういう女子向きの趣味は隠しておきなよ、って思わないかな?そしたら、きっとその子は、自分の好きなことは隠さなきゃいけないような恥ずかしいことなんだ、と思っちゃいますよね。
そんな健のことを静さんは励まします。夢中になれれるものがほしくて、大人になってから習い事したり自分探ししたりする人が多い中、もうそういうものに出会えてるのは幸せだ、って。さらに静さんは続けます。
「いつの時代も先駆者は試されるし、たたかれるものよ。エジソンは変人扱いだったし、ビートルズは聞くと不良になる音楽と言われた。ソクラテスは若者によい影響をあたえないからと読によって処刑された」(P.100)
静さんは、コーヒー入れの達人だし、健の趣味の腕も素晴らしいから認められているけれど、じゃあ特技がない人は認められないのか・・・そんなことも考えさせられました。
■ 知らないから否定する
そんな素敵な静さんの喫茶店でしたが、ある日事件に巻き込まれてしまい、静さんが元男性だったということがマンションの住民の間で問題になります。健と愛は、静さんの立ち退きをめぐるマンションの臨時総会に乗りこんでいくのですが、ここに登場するヒステリックなおばさんが、もうねぇ!ちょっとステレオタイプかなあ、とも思うのですが、実はこのおばさんの言い分、密かに同調している大人は多いんじゃないかな。おばさんの言い分はこう↓
「…(中略)…いろんなことなんてね、誰でもなにかしら抱えてるのよ。それでも社会となんとか折り合いをつけて暮らしてるの。男は男らしく、女は女らしく。社会が求める役割をせいいっぱいみんながこなしている。それを、なに?ふざけてるわ。男が女で生きるなんて。女をばかにしてる。女のほうが生きて行くのに楽チンだと思っているのよ。」(P.151)
言い方は違くても、みな何かしら我慢して生きてる、だからあなたも我慢しなさい、と思っている人は多いと思う。大人になればなるほど。
ただ、私が気になったのは、このおばさまよりも、黙っているその他大勢でした。あれだけ子どもたちが世話になっておきながら、子どもたちを制止しようとする健と愛の母親しかり。おばさまはある意味裏表なく、自分の気持ちに正直ですからね。自分の意見言わない、その他大勢・・・ずるいなあ。
偏見とか差別ってね、無知から来ると実感しています。外の世界を知らない人ほど差別する。それは知らないから、知らないものはコワイから。静さんはこんな風に言っています↓
「自分とちがうものや知らないものを、人は怖いから……からかったりばかにしたり否定するんだよね」(P.101)
異質物を排除しようとするのは、自然界ではもう自然なこと。自然なのだけれど、だからこそ、私たちは努力して知ろうとしなければいけないと思うのです。学ぶことが、平和な社会への第一歩。
静さんのような性同一性障害の人たちが、どんな言葉で傷つき、どんな風に感じているのかが手に取るようによく分かるのが、『ジョージと秘密のメリッサ』(以前の紹介記事はコチラをクリック)。こちらもおすすめなので、あわせてぜひ。