内容で敬遠しないで!
『第九軍団のワシ』(1972年)ローズマリ・サトクリフ作 猪熊葉子訳 岩波少年文庫
The Eagle of the Ninth,1954 by Rosemary Sutcliff
今回のバカンスのおともの本のうちの一冊がコチラでした。20世紀のイギリス児童文学を代表する作家、ローズマリ・サトクリフ。
実は、歴史ものって苦手なんですよね。なので、家事にとらわれず、じっくり読めそうな今回、やっと重い腰をあげた感じ。
じいじ(私の父)が昔からサトクリフの大ファンで、そこからケルトにハマっていたので、幼少期からサトクリフのハードカバー本の背表紙は見て育ってきたんです。
(ハードカバー持ち歩くのは重いので、家にあっても図書館で岩波少年文庫版借りましたけどね)
軍団とか王とか騎士とか、全然惹かれなくて。
闘いものというイメージだけで敬遠していました。
それが、読んでみようかなと思ったのは、上橋菜穂子さんがサトクリフの大ファンだと言ってたから(←じいじの影響、ちゃうんかいっ)。
ずしん、と来ました。
いまも余韻に浸っています。
こういうのを読んでしまうと、いかに現代の物語が軽いかと感じずにはいられないなあ。
なんだろ?重みが違うというか。深みが違うというか。ジワジワと響いてくる静かな感動なんです。現代ものにありがちな、「ホラホラ、ここが感動ポイントですよ~」みたいな作者の意図丸出し感がない。
ちなみに、あらすじはこんな感じです↓
【『第九軍団のワシ』あらすじ】
ローマ軍団の百人隊長マーカスは、ブリトン人との戦いで足を負傷し、軍人生命を絶たれる。マーカスは親友エスカとともに、行方不明になった父の軍団とその象徴である“ワシ”を求めて、危険に満ちた北の辺境へ旅に出る。中学生以上。
(BOOKデータベースより転載)
う~ん、やっぱりこれだけ読んでも全然興味わかない(笑)。児童文学においては、あらすじに惑わされてはいけない!フタをあけてみたら、あらすじに興味持てなくても、良かった!というものが多いというのは知ってはいたのに・・・それでも読む気が起きなかった。
そんな私でも、見事に物語の世界に入りこめましたよ!これはやっぱり読んでおきたい名作。ローマン・ブリテン四部作。
紀元117年頃、北に進軍していた第九軍団が霧の中にそのまま消息をたつ、という実話が元になっています。4,000人以上もの軍人さんたち、一体どこに消えたの!?まさか霧を境にそのまま異世界へ?という思いがよぎるくらい、本当に謎な事件。だって、そんな多人数があとかたもなく消えるだなんて。
さまざまな不名誉なうわさが渦巻く中、父とその軍隊の名誉を回復しようと動くのが、負傷したため軍人生活ができなくなったマーカス。奴隷から救い、親友となったエスカとともに、父の軍隊の軌跡をたどっていきます。その間の辺境の部族とのさぐりあいのドキドキも、ミステリーとしても面白い。
が!!!
それよりもやっぱり中心は、主人公の内面の葛藤や友情、誇りを持っていきることとはどういうことなのか、ってこと。生き方の問題。だから、いまの人が読んでも響くんです。
その内面の葛藤なのですが、いまの人みたいに葛藤を描くのにも言葉が多くはないのが印象的。いまは葛藤を表現するのに、言葉が多すぎる、複雑すぎる。
言葉で説明しようとすること=頭で考えすぎ=感じる部分はおざなり、になる気がします。
2011年に映画化もされていて、映画も好評の模様↓
けれど、なんていうんでしょう?これは、ぜひ原作を読んでほしい。
サトクリフは実は身体が不自由で、車椅子生活だったそうなのですが、想像力であの壮大な世界観を描き出した人なんです。すごいなあ、すごい!
本でしか味わえない余韻を味わってもらいたいです。