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権力の象徴、芸術、言葉・・・最後に残るのは?


『イスカンダルと伝説の庭園』(1999年) 

ジョアン・マヌエル・ジズベルト作 宇野和美訳 徳間書店

今日の一冊は、11世紀のアラビアを舞台にしたコチラ!

国は架空の国ですが、なんていうんでしょう、もうタイトルだけで異国の香りと、壮大なロマンを感じちゃいます。

たまには、こういう壮大なスケールのもの読みたい。なんか、ふわっと別世界へ連れて行ってくれるのです。物語の力で。

あっという間に読めてしまう短めの物語ですが、五感に訴えかけてくる詩情豊かなストーリー。

《『イスカンダルと伝説の庭園』あらすじ》

舞台は11世紀くらいのアラビア。栄華を誇っていたものの、世継ぎに恵まれなかった王アルイクシールは、後世に名を残すため、世界一美しい庭園をつくることを思い立つ。そこで白羽の矢が立ったのが、放浪の建築士イスカンダル。イスカンダルは夢のような依頼に喜び、芸術家魂が触発され庭の設計と建築に没頭する。

ところが、ある日謎の占い師に自分の身の安全を心配されたイスカンダルは、完成まであと一歩というときに疾走し・・・。王の野望とは?イスカンダルが消えた理由、そして戻って来た理由は?最後に残るものは?二転三転する展開から目が離せない美しい物語。

以下多少のネタばれも含まれますので、ご自身で謎解き(ってほどの謎でもないけど。すぐ分かる)されたい方はここまでで。

■ 日本人には馴染みにくい?詩の偉大さ

「詩は、美しいだけではなく、真実の光も宿すものだからな。命をかけて、真実を求めようじゃないか」(P.138)

これはこの物語の鍵を握る人物、偉大なシリアとアラビアの詩人ダラバッドの言葉。

いいなあ。尊い。

しかしですね・・・私・・・告白すると、詩の良さが実はよく分からないのです。自分の名前の中に詩という漢字が入っているのに(笑)。

いやね、普通にいいなとは思います。けれど、魂が震えるような感動を覚える・・・正直そこまでいかないのです。

私みたいな人、実は多いんじゃないかな?って。日本は詩においては後進国。

ヨーロッパの人たちのルーツはギリシアから派生していることが多くて、彼らの中では吟遊詩人を崇める遺伝子が残っている。イスラム文化圏しかり。

詩人の地位が高いんですね。この物語では、詩人ダラバッドが物語の鍵を握ってくるのですが、彼らに会うと人は泣くほど感激する。

ぜひ、詩も味わいたい物語です。

■ 一瞬だけれど永遠の友情

そんなダラバッドと幽閉されたイスカンダルの初対面の場面は胸に迫るものがあります。

この二人の間に一瞬のうちに結ばれた絆、友情はその後も二人の心の中に忘れがたいものとして残る。

でも、この二人、その後二度と会うことはないんです。こういう友情ってありますよね。魂の出会いとでもいうのか。

良くも悪くもネットを通じて時間も空間も超えてすぐに相手とつながれてしまう現代。そんな現代では、こういう出会いの可能性は、なくなりつつあるような気がしてならないのです。

だからこそ、物語で出会ってほしい。こういう友情もあるんだよ、ってこと。

■ そして、最後に残るのは・・・

芸術、美の追求は人間として生まれたからには、追求したくなるある種の人間に与えられた特権のような気がします。追求できる幸せ。才能ある者たちによって生み出されたものを、凡人の私たちも愛でさせてもらえる幸せ。

しかし、どうして、人って自分の名を後世に残したいんでしょうね?認知欲求はいつの時代にも共通してるのかな。王の場合は、もちろん美も追及しているけれど、結局のところ自己顕示の追求ですなあ。

でもね、形あるものはやはり崩れるんです。そこに、滅びの美学もあるわけですが・・・。

では、最後に残るものは?

形なきもの。

一瞬を永遠にできる言葉の力、そして想像力の持つ無限の可能性を感じさせてくれる。

そして、いかなるツライ状況でも、気高く生きれることを教えてくれる物語です。

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