キーパーの魅力を伝える一冊
『キーパー』(2006年)マル・ピート著 池央耿訳 評論社
今日の一冊はコチラ。
うちの子どもはチームスポーツには向かないし、縁がないなあ、と思っていたのですが…。中1長男が、なんと夏休みの合宿からいきなりサッカー部に入部!というわけで、急にサッカーものを手に取りたくなり、サッカーものの紹介が続く予感です(笑)。
こんなこと書いたら各所から叩かれそうですが、サッカーのキーパーってかわいそうだなあ、って思ってたんです。サッカー知らない素人考えで。だって、みんなボールが蹴りたくて、ゴールしたくてサッカー入ってるのに、待つだけなんて・・・って。
そんな私にもキーパーというポジションの魅力を教えてくれたのが、今日ご紹介するこの物語です。
《「キーパー」あらすじ》
「南米随一のサッカー記者、パウル・ファウスティノ、いよいよ史上最強のゴールキーパーにインタビュー。つい一昨日ワールドカップをつかみとった男」―貧しい少年が、世界最高と言われるキーパーになった。が、その栄光の陰には、万人の想像をはるかに超える秘密が隠されていた。サッカーにまつわる美しくも深遠な幽霊話。ブランフォード・ボウズ賞受賞作。
(BOOKデータベースより転載)
ものすごくドラマチックというわけでもない。途中説明が長く、サッカーに馴染みがないとついていけないところもありますが、本に馴染みのないサッカー好きな人に差し出せる一冊かも。
史上最強のゴールキーパー、エル・ガトーは、淡々と、自分の半生を親友のサッカー記者に語っていきます。貧しくも、父親は森林伐採という自分の仕事に誇りを持ち、家族仲良く暮らしていた、ごく平凡な家庭の少年時代。ひょろひょろと背だけが高く、サッカーでは役立たずだった少年エル・ガトーは、広場でサッカーをすることは13歳であきらめ、森の中で時間を過ごすようになります。
うん、一人で時間を過ごすときに不思議なことって起こるんですよね。
そこに、現れたのはジャングルの中の広い空き地にサッカーゴール。そして、ゴールキーパーの……幽霊!そして、エル・ガトーは幽霊からキーパーからたくさんのことを教わるようになるのです。
いやあ、キーパーってすごいんだなあ。ものすごい観察力、洞察力、そして冷静沈着でいることが求められるんですね。こう言葉に書いてしまうと、当たり前のようですが、この物語を通してキーパーというポジションの難しさと魅力がよく分かりました。実に面白い。
そして、一人の人の成長の陰には、実にたくさんの人の支えや思いが乗っかっているんだなあ。最後はしんみりと、じんわりと胸に迫るものがあります。あのキーパーは一体何者だったのでしょう?なぜあそこにいたのか、なぜ幽霊のままでいたのかは、最後に明かされます。
個人的には、ジャングル(自然)と人間との戦い、共生ということについても考えさせられた物語でした。