沖縄ってすごい。『キジムナーkids』
『キジムナーkids』(2017年)上原正三著 現代書館
この8月の一冊と言ってもよいかな。出会えてよかった沖縄の戦争文学。
著者の上原さんはウルトラマンなどのシナリオライターの方。
とても重い内容なのですが、軽やかなんです!
生きるたくましさというか、不思議な明るさがあるというか、光があるんです。ぜひ、たくさんの人に手に取ってもらいたい。こういうのを読まずして、沖縄に旅行とか行ってほしくないなあ。あの明るさの底にあるもの。
■「憎しみ」に焦点を当てないすごさ
戦後の沖縄の話なので、目を覆いたくなるくらいの悲惨な現実があります。
村まるごとの集団自決、ひめゆり学徒隊の話や、米軍兵による相次ぐ強姦、その後、人間なのにゴミ捨て場にポイ捨てされる話とか。あまりのことに苦しくて、苦しくて・・・でも読み進めさせてくれる。
それは、おそらく著者が「悲しみ」を描いてはいても、「憎しみ」に焦点を当てていないからかもしれません。それってすごいこと。戦争文学ってとかく、こんなに苦しかったんです、こんなに悲惨だったんです、って悲劇を訴えよう終始しがち。
なぜ自分たちだけが・・・という思いも当然あることでしょう。ありつつも、そこよりも、これからどうするか。前を向いている。それが、スゴイ。
「いま」を生きている。だから、エネルギーに満ち溢れているんですよねえ。明らかに相手のほうが強い敵国へ復讐してやられるよりも、相手を利用してやれ、というたくましさ。
とにかく、生きる。生き延びる。
■ 沖縄の包容力:幽霊も友だち
一人一人の登場人物に当たり前だけれど、ストーリーがあって。どれもこれもツライものばかりだけれど、たくましい。特に、米軍兵に身体を売ってまでも叶えたいハルちゃんの夢を知ったときは、涙が止まりませんでした。
フリムン軍曹という、狂人と思われる人物も出てくるのですが、実は彼がしていることは何なのかというのを知ったときは、衝撃。ネタバレになるので、書かないけれど、忘れられない出会い。ぜひみなさんにも出会ってもらいたい。
物語全体を通じて感じるのは、沖縄の人たちの全てを受け止め、受け入れる包容力とでもいうのでしょうか。
例えば、幽霊をこわがる主人公に対し、お父さんは「友だちになるんだ、幽霊と」と言います。幽霊に会ったことがあるお父さん。幽霊も仲間だから怖くない。無念のまま死んでいった仲間である幽霊にお父さんは話しかけたと言います。なぜそこに立っているのか、話したいことがあれば聞いてあげる、と。3.11後、幽霊たちを乗せたタクシー運転手さんの話を思い出しました。
沖縄の方言がたくさん使われていて、都度注釈を読まなければいけないので、最初は読みづらいかもしれません。でも、慣れてくると、やっぱり方言でなければ伝わらないなと思うので、最初の読みづらさに挫折せず、読んでいただけたらなあ、と思います。