高機能自閉症に限ったことじゃない
『レイン 雨を抱きしめて』(2016年)アン・M・マーティン作
西本かおる訳 小峰書店
RAIN REIGN,2014 by Ann M. Martin
最近、「大人のアスペルガー症候群」がよく話題になっていますが、変わり者の天才にも多いと有名ですよね。アインシュタイン、レオナルド・ダ・ヴィンチ、エジソン、ゴッホなどなど。現代人ではスピルバーグやスティーブ・ジョブスとか。
今日の一冊は、そんなアスペルガー症候群と同じような症状を持つ、高機能自閉症の子のお話。上記にあげたような天才なら周囲も認めるかもしれませんが、ただこだわりが強くてやっかい、と思われる子も多いのも事実。高機能自閉症では、言語発達の遅れがあるそうです。
地元の図書館では、YA(ヤングアダルトと呼ばれる中高生向き)の棚に置かれていますが、文章は会話文も多く、読みやすいので、小学校高学年や本が苦手な子でも読めそう。
【『レイン 雨を抱きしめて』あらすじ】
もうすぐ12歳になるローズは、勉強が遅れているため小学5年生のクラスにいる。同音異義語、ルール、素数が大好きで、ルールが破られるとパニックに陥ってしまう。パパと二人暮らしだが、パパの弟ウェルドンおじさんと仲良しで、学校の送迎はおじさんがしてくれている。ある日パパが迷い犬を家に連れ帰り、それ以来その犬レインとローズは深い絆で結ばれていたが、ある嵐の日レインは行方不明になって・・・。
アスペルガーには、頭のいい人が多かったりもするのですが、対人コミュニケーションに難ありで、集団の中でやっていくのには難しい。まあ、何にでも病名をつけてしまうことには疑問も感じるのですが、でも高機能自閉症の子はこんなところにパニックになるんだ、こうすると落ち着くんだ、と勉強になりました。
これね、周りにそういう人がいなければ、あえて自分からはアスペルガーに関する本読もうと思う人、少ないと思うんです。
でも、こうやって物語にしてくれれば、すーっと入ってくる。どう向かい合ったらいいのかを教えてくれます。そこが、物語のすごいところだなあ、って、物語の可能性にいつも驚かされます。
個人的にはパパの心情にももっと寄り添ってもらいたかったな、という思いもありますが、これはローズの一人称語りなので仕方ないのかもしれません。
一人称語りは読みやすいし、感情を乗せやすいけれど、ローズの視点からだけだと、ウェルドンおじさんに比べて、パパの印象は悪くうつってしまうんだなあ。実際、あまりいいパパではないのですが、父親から虐待され、里親を転々としてきた人生を歩み、愛情のある家庭を知らない人が不器用ながら育てているんです。
誰の力も借りずに自分の手で育てることが、最大の愛情と信じて。同じ里親に引き取られ、同じく転々としてたパパの弟はどうして、ローズにパパよりも寛容でいれたのか。その辺ももう少し踏み込んで知りたかった思いもあるのですが、詰め込み過ぎても伝わらないのかもしれませんね。
これ、高機能自閉症に限ったことじゃなく、どの子にもその子なりのルールや落としどころがあるんだと思います。その子に変われ!周りに合わせろ!というのではなく、周りがどう向かい合うかなんだな、ってことを改めて思わされました。