思い込みだって勇気をもらえる
『木を切らないで』(1992年)
ジュディ・アレン作
シャロン・スコットランド画
小峰和子訳 福武書店
Awaiting Developments (1988), Judy Allen
今日の一冊も福武書店(現ベネッセコーポレーション)から。ベネッセどうして、文芸作品事業から撤退しちゃったんだろう・・・。ベストチョイスいいものだらけなのになあ。
いや、答えは分かってるんですけどね。売れないからですよね。いいもの=売れる、わけじゃない。だから、ビジネスとしては切りたくなるのは、当然といえば当然ですよね。
今回の物語もちょっとそれにかぶります。素晴らしい庭(自然環境)=残すべきもの、ではない。開発業者が迫ってきます。
【『木を切らないで』あらすじ】
裏の家の庭・大きな木やすてきな花がたくさんあって、リスや鳥も住んでいるお気に入りの広い庭に、マンションが建ってしまう…。ジョアンナは、大好きな庭を守るために自分に何かできないか、と考え、おそるおそる行動をはじめます。一方、ジョアンナをはげましてくれた親戚のキャサリンの「家系調べの旅」も意外な展開をみせて…。大切なものを守ろうと、せいいっぱいがんばる女の子を描きます。1989年、地球の友「ミミズ」賞受賞。小学校高学年から。(BOOKデータベースより転載)
■ 選挙権ないものは発言権なし!
私が住んでいる地域は谷戸と呼ばれるちょっとした山みたいなところに住宅街があります。なので、この物語の庭とはちょっと違うのですが、景観を残したいという点では重なるところがあってですね・・・。え、こんな狭い斜面に?また山が切り崩されるの?ってところが、どんどん切り売りされていきます。「住宅建設反対!」っていう看板も立ちましたが、家が建ってしまいました。
でもね・・・そこに暮らしている幸せそうな家族を見ると、何とも言えない複雑な気持ちになるのです。人を住む権利奪えないよね、って。
ジョアンナのパパとママは鼻からジョアンナのいうことを取り合ってくれません(その態度もどうかとは思うけれど)。悲しいかな、大人になってしまった私にはこの両親のいうこともよく判ってしまうのです。家は必要だ、開発業者に対して、ばかげた偏見がありすぎる、自分たちだって開発してもらったから今ここに住むことができている。
あーあ、その通りなんですよねえ!
自分だって、住民の一人だから反対ということを手紙に書くというジョアンナに対し、パパのいう言葉は現実すぎてへこみます。
「そんなことしても、なんにもならないと思うよ」パパはやさしく言った。「おまえには選挙権がないんだからね。そもそも審議会が、住民の声に耳をかたむけると思えないけど、選挙権のないものの声に耳をかたむけないことだけは確かだね」(P.66-67)
そう!これが汚い大人の世界。現実。
じゃあ、子どもはただ悔しがって、黙って指をくわえて見ていればいいのか・・・。
負け戦はしない?いいえ!ジョアンナはそれでも、行動しました。最初はしぶしぶ流れでね。
■ 勇気をくれる存在は思い込みだっていい
そんなジョアンナの背中を後押ししてくれるのは、家系図を調べるという理由で、カナダから居候として転がり込んできたキャサリン。彼女とジョアンナが夢中になったのが、マリオン・バートレットという祖先なのですが、この祖先が勇敢なのですよ。彼女に励まされ、自分にもその血が流れているのだということが行動へと駆り立ててくれるのです。
(以下ちょっとネタばれ含みますので、注意)
ところが、行動したあと分かったことは、このマリオン・バートレットが自分たちが聞いていた人物像とはちょっと違っていた、という衝撃の事実。
このことから、思うのは、事実なんてたいして重要じゃないんだなあ、ってこと。思い込みだって、勇気をもらえる。勇敢な血が流れてなくったって、できるとうことをジョアンナは教えてくれます。ジョアンナにできたんだから、私にもできるんじゃない?って思えること、それが大事。
周りにそういう手本にしたいような人がいなくたって大丈夫。そういう物語がたくさんあります。ときにはフィクションのほうが、より真実に迫ってくるし、親しみを覚えるもの。だからこそ、物語を手渡していきたいんだなあ。
■ 結果がどうであれ今できることをやる
「日本の読者のみなさんへ」と作者からのあとがきにはこんなことが書かれています。
中略・・・私は破壊について書こうとしたわけではありません。可能性について、ささやかな努力の大切さについて、書こうとしたのです。(P.257)
そう、これは直接的な環境問題を考える物語ではないんです。でも、直接的でないとかえって自ら考えたくなるから人間って天邪鬼!?
いや、押し付けられた感がないのがよいのでしょうね。責められてる感じがしないから、能動的に考えられるというか。
無力であっても、可能性を信じて行動する。
実際にインドネシアのバリで、レジ袋撲滅にこぎつけたティーンエイジャーたちの挑戦を思い出しました。こちらの動画も素晴らしいのでぜひ↓