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知らなければいけない物語がある


『世界の果てのこどもたち』(2015年)中脇初枝著 講談社

気づけば8月です。

8月は、毎年できるだけ戦争文学を読むことにしているのですが、正直気が重くなりがち。人間の愚かさを目の前にしての無力感…。

それでも、知らなければ、耳を傾けなければと思う物語がまだまだある。そのうちの一つが、今日ご紹介する『世界の果てのこどもたち』でした。

もともと中脇初枝さんは『きみはいい子』(映画化もされてます)を読んで、好きな作家さんだったので読みたいリストには入っていたのですが、さくまゆみこさんもおススメしていたことが後押ししてくれて、一気読み!

《『世界の果てのこどもたち』あらすじ》

戦時中、高知県から親に連れられて満洲にやってきた珠子。言葉も通じない場所での新しい生活に馴染んでいく中、彼女は朝鮮人の美子(ミジャ)と、恵まれた家庭で育った茉莉と出会う。お互いが何人なのかも知らなかった幼い三人は、あることをきっかけに友情で結ばれる。しかし終戦が訪れ、珠子は中国戦争孤児になってしまう。美子は日本で差別を受け、茉莉は横浜の空襲で家族を失い、三人は別々の人生を歩むことになった。 あの戦争は、誰のためのものだったのだろうか。 『きみはいい子』『わたしをみつけて』で多くの読者に感動を与えた著者が、二十年以上も暖めてきた、新たな代表作。(講談社ホームページより転載)

中国残留孤児、在日朝鮮人、戦争孤児の物語。

著者は私と同い年。戦争を知らない世代。たくさんの資料を基に、書かれています。珠子、美子、茉莉、読了後、この三人は確かに私の中に生き続ける、そんな物語でした。出会えてよかった、読めてよかった。どれもこれも、知らなければいけない物語。知れて本当によかったと思う物語。

Amazonのレビューで、「課題図書になってほしくないが多くの子どもたちに読んでほしい本です」と書かれている方がいて同感です!

「読まされた」と思ってほしくない。でも、子どもたちがもし戦争について知りたい!と自ら興味を持ったのなら、すっと差し出したい1冊です。図書館によって、児童書コーナーにあったり、一般書コーナーにあったりさまざま。ぜひ探してみてください。

ところで、私自身が手にとったきっかけは、満州が舞台だったから。私の父は満州育ち。そんなわけで、私の小さい頃の楽しみは、祖父が皮から作ってくれる中国人直伝の餃子やロシア人直伝の絶品ピロシキでした。周りは日本人でかたまっていたそうなのですが、私の祖父は社交的だったのか好奇心旺盛だったのか、中国人やロシア人の友人もいっぱいいたそうです。あの時代、貧しくて苦労もしたようですが、それでも、この本に出てくる開拓団の人たちのような壮絶な苦労はなかった。

開拓団の方たちの苦労は、途中つらすぎて、読むのを投げ出したいと思うほどでした。でも、中脇さんが割りと淡々と書いてくださってるおかげで何とか読み進めました。読み進めるにつれ、何度も自分に問いが起こりました。

「私ならどうしてた?」

極限の状態にあって、果たして自分は人としての尊厳を保っていられただろうか。

自分のうちの赤子が泣くせいで、敵に見つかりそのせいでみな殺しに合うかもしれない、という状況下で、自分だったら、その泣き止まない赤子に対してどうしていただろうか…。ぞっとします。この物語に出てくる非人道的に思える人たちと自分が重なるからです。一人の命より大勢の命。恵まれている人を逆恨みする気持ち。どうして、自分ならそうしないと言えるでしょう?

つらすぎる場面が多いこの物語で、それでも読み進められたのは、そんな極限の状態にあっても、人間の愛を信じさせてくれたからかもしれません。

どんなにお腹がすいていても、おにぎりの大きいかたまりのほうを友人たちに、当たり前のように差し出せる美子。愛情に囲まれて育ったからこそ、その後つらい目にあっても、愛情を他人に注ぐことができた茉莉。憎き日本人の子を育ててくれた、中国の方たちにも本当に頭が下がります。

「いくらみじめで不幸な目に遭ってもね、享けたやさしさがあれば、それをおぼえていれば、その優しさを頼りに生きていけるのね。それでその優しさを人に贈ることもできる。……」(P.341)

茉莉の言葉だけれど、美子を体現している言葉でもある。いつの時代にも共通する大事なこと。自分はどれだけ、自分の子どもたちに優しさを贈れているのだろう。自問自答しました。

また、美子の朝鮮学校の谷口先生はこう言います。

「人間、そんなばかげたことで死んじゃいけない。二度とそんな愚かなことをくりかえさないようにするために、勉強するんだ」(P.173)

勉強ってなんでしょう?

学校の勉強が勉強?

こんなばかげたことで死んだり、人を殺したり(そう、戦争って自分も人を殺すこと!)することのないよう、私たちはこういう物語を読み繋いでいかなければならないんだと思います。

それが、勉強。それが、大人に課せられた勉強。だから、こういう物語を読んでいきたいと強く思いました。

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