残しておきたい昭和の風景 坂の上のグミ屋敷
『坂の上のグミ屋敷』(1972年)
岡野薫子作 岩淵慶造画 岩波書店
今日の一冊はコチラ。もちろん!?絶版です。このブログでは、絶版本も紹介していきます。というか半数くらいは絶版本?
残したい、伝えたい物語を紹介していくと、こういう形になってしまうのです。
復刊の願いを込めて☆
さて、今日ご紹介する『坂の上のグミ屋敷』は、1950年代~60年代(昭和30年代)がおそらく舞台なのかな?いわゆるどの時代にも通じる真理の物語ではないので、絶版になるのもやむをえないかも。でもね、残したい昭和の風景として、人々の記憶として、こういう物語も残ってほしいなあ、と思うのです。この時代に生きたわけではないのに、やたらと郷愁感にかられた私。日本人の記憶に眠る原風景なのでしょうか。
作者の岡野さんのおそらく子ども時代を回想して書いているので、大田区が舞台かと思われます。物語の中心がけやき坂と呼ばれる坂なので、ググッてみたら、アイドルの欅坂46しか出てきませんでした(苦笑)。
この物語でイキイキしているのは、猫、そして坂の下に住む子どもたち。まだ道路が子どもたちの安全な遊び場でありえた時代。この子どもたちが、ふとしたことがきっかけで、坂の上にあるグミ屋敷と呼ばれる大豪邸に遊びに行くようになるのです。おじいさんとおばあさんが二人暮らししている豪邸には広い広い庭があって、子どもたちはそれぞれ自分だけの木を決めて、遊ぶんです。
ああ、羨ましい!!!
その光景が目に浮かぶようなんです。楽しかっただろうなあ。いいなあ。私も確かに、この庭知ってる!!!という不思議な感覚。一緒にワクワクさせてもらいました。
ところがね、おばあさんが亡くなって、おじいさんの力だけでは何ともできなくて、その広―い敷地は、マンションになってしまうというのです。8階建て、200世帯!!!
当時はまだマンションというものが身近ではなかったようで、子どもたちは、自分たちの木が切られてしまったという悲しみや憤りを感じつつも、マンション建設への興味津々も捨てきれないのです。ココがとても現実的。
マンションが建ってみれば、そこに住んでいる子とも友だちになって、それはそれで楽しくて。
開発の波は止められないのかしら・・・?複雑な思いをそれぞれ抱えつつも、見事に順応していく子どもたちが、とても現実的でした。
せめて、物語としてでも残しておきたい風景だな、と思った一冊でした。