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無力と感じるときに


『ジョン万次郎 海を渡ったサムライ魂』(2012年)

マーギー・プロイス作 金原瑞人訳 集英社

Heart of a Sumurai,2010, Margi Preus

ニューベリー賞オナー

すみません、歴史にまっっったく興味のなかった私、ジョン万次郎と聞くと、昔新橋にあった居酒屋さんしか浮かんでこない(笑)。

そんな歴史もの苦手な私だったので、この一冊も子どもと見る風景kodomiruさんがオススメしてくれなければ、自分からでは決して手に取らなかったでしょう。読めてよかった。出会えてよかった。kodomiruさん、ありがとうございます!

無人島でのサバイバル、船の上での暮らし、日米での捕鯨の違い、差別、異文化理解、成長&自立、色んなテーマが入っていて、とても楽しく、じわじわ感動する一冊です。

【ジョン万次郎って?】

1800年代。

アメリカ東部に暮らした初めての日本人、ジョン万次郎(中浜万次郎)。土佐の貧しい母子家庭の稼ぎ手だった万次郎は、14歳のときに漁船が漂流。鳥島と呼ばれる無人島で143日間生き延びたのち、アメリカの捕鯨船ジョン・ハウランド号により救出。船長に気に入られた万次郎は、ホイットフィールド船長の養子となり、言葉も習慣も異なる地で、いじめや差別にくじけることなく、強く生き抜いていく。苦労ののち、帰国するも、取り調べや尋問に時間がかかり、故郷の地を踏めたのは、漂流から実に11年後のことであった。

こちらの本では、帰国後のことはさらりと書かれていて、思春期の成長時代が丁寧に描かれています。2013年の高等学校の部での課題図書だったそうですが、本好きな子なら小学校高学年でもいけそう。ちなみに、鎌倉の図書館では一般の棚にありました。

個人的に驚いたのは、これが日本人の手によって書かれたものではなかったということ。すごく日本人の心情に沿って書かれていて(特に捕鯨のところ!)、世界文学になってきたというのはこういうことなんだなあ、って実感します。実際に万次郎が残した記録や資料をもとに、多少のフィクションは入れつつもほぼ忠実に、彼の人生を描いています。

■ 生き抜いた秘訣は?

過酷な状況で、万次郎が生き抜いた秘訣って一体なんだったんでしょう?

万次郎以外にも日本人仲間が4人一緒に漂着したのですが、万次郎いなかったらこの人たち生き残っていなかったのでは?とすら思う。万次郎だけが、他の人たちとはちょっと違ったんです。

例えばね、漂着した島でふたつの墓があるのを見て、みなは落ち込むわけです。自分たちもこうなってしまうのでは・・・ってね。でも、万次郎だけは気づく。その墓作った3人目がいるはずだ!その人は助かったんじゃないか?って。

万次郎は、ずば抜けて優秀!とかじゃなくてね、他の人が「どうしてそんなこと気にするの?」と「そんな夢みたいなバカなこと言って。早く現実を見て」とむしろ疎ましい目で見られる感じ。

そんな万次郎が生き抜いた秘訣は、同じく無人島で生き抜いた少女の実話『青いイルカの島の少女』(スコット・オデル作)と同じかな(そのときの記事はコチラをクリック )

観察力(洞察力) & 好奇心(知的欲求)

なんじゃないかな、って個人的には思います。

折れない心はここから生まれるんだなあ、と改めて感心。現代にも生きる知恵やヒントが、たくさんこの本にはあります!

■ 必ず、誰かが世界を変えている

さて、野蛮人アメリカ人の欠点も冷静に見えつつも、でも彼らが知っていて万次郎が知らないたくさんのことを、もっともっと知りたくて、万次郎は彼らの世界へ飛び込みます。

ところがね・・・万人の平等をうたうはずの教会で、万次郎は黒人席へ行けと提案され、教会を変えることを余儀なくされるんです。うーーーー!

教会に行きたくなくて、ベッドにいる万次郎。救いは、声をかけるホイットフィールド夫人の素晴らしさでした。聞いてください!夫人は、こんな風に語りかけます。

「・・・中略・・・この国はいま、難しいときにさしかかっているけれど、それを乗り越えて成長していくのよ。だれかさんと同じね。こんな気持ちのいい朝に寝ているつもり?さあ、起きて、世界を変える手助けをしない?手はじめに教会から」(P.160)

手はじめに・・・、手はじめに・・・!

万次郎はハッとするのです。どの変化も、必ず誰かが起こしたもの。誰かが世界を変えている。忘れがちですよね。まるで世界が自然に変化していってるかのように思えてしまうけれど、必ず誰かが動いた結果とその積み重ね。だったら、もしかして、自分にも世界が変えられるのでは・・・?ってね。

その後も、アメリカでも帰国後も苦労する万次郎ですが、私たちに見せてくれるのは、希望。偉人というよりも、身近に感じる存在として描かれているので、励まされる人も多いのでは?

巨大な壁を前に、自分ではどうすることもできないと途方にくれているとき、投げやりな気持ちになっているとき、読みたい一冊です。

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