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最初から勇敢でなくてもいい


『うら庭の水の精』(1991年)

グードルン・パウゼバンク作 

インゲ・シュタイネッケ絵 

遠山明子訳 福武書店

今日の一冊はこちら。福武書店なので、絶版ですが、福武書店のベストチョイス(選び抜かれた子どもの本)シリーズってとってもいいものが多いんですよね。

図書館で見かけたら借りてみて下さいね。

【『うら庭の水の精』あらすじ】

むかしむかし、年とった王さまが、むすめの王女さまをつれていなかの古い家へひっこしてきました。その家には草ぼうぼうのすてきな庭と、すてきな緯度がありました。そして井戸には、水の精が住んでいたのです。水の精と王女さまはとてもなかよしになりましたが、ある日・・・。メルヘンの国ドイツで生まれた、現代の新しいメルヘンです。

(BOOKデータベースより転載)

昔話を発展させたようなお話なので、本が苦手な子でも読みやすいかも。小学校中学年から。

現代の新しいメルヘンとありますが、物語を読む限り、時代設定はワカラナイ。現代の人が書いたから現代のメルヘンと謳ってるのかな。でも、子どもはそんな書かれた年代なんて意識せずに読むし、雰囲気もお城があった時代そのものといった感じなので、文中一カ所だけ“リゾートホテル”という言葉が出てきたところだけは、違和感でした。

さて、水の精はね、とっても醜いのですが、王女さまは意地悪なおばさんたちによって影響されるまでは、そのことにすら気づかないのです。一緒にいて楽しい、幸せ。ただ、それだけ。

ちょっとグリムの『ロバの王子』を思い出します。子どもである王女さまは、ちゃあんと水の精の本質を見ていたんですね、最初は。

でも、悲しいかな、おばさんたちの影響で水の精が醜いことに気付き、そこから水の精の存在自体を忘れて行ってしまいます・・・。

■ 間違うことだってある。やり直せばいい。

結果的には、愛と勇気の物語となっていますが、王女さまも水の精も、決して最初から勇敢だったわけじゃないんですね。そこがいい。

3回も継母に騙されてしまう白雪姫のように、最初からうまくいかないところも昔話と共通しています。水の精は、王女さまが最初の二人のおばを嫌がってるときには、救うどころか自分も怖がって、井戸から出てこなかったのです。なんとも情けないじゃあありませんか。

王女さまだって、華やかな生活に目がくらんで、水の精のことをすっかり忘れてしまう時期もあったのです。

間違うことは誰にでもある。間違いに気づいても、勇気が出ずに、時間がかかることもある。でも、最終的には動く。やり直せる。そんなことをこの物語は教えてくれます。

■ メルヘンに込めた平和への思い

作者のグードルン・パウゼバンクはチェコ生まれで小学校の教師をしていた人。

戦争、環境、差別などを正面から見据えた作品を多く発表しているそう。なので、水の精と王女さまの関係にも実はこんな思いを託しています。「日本の読者のみなさまへ」という作者からのメッセージを抜粋しますね↓

中略・・・大人はみなさんに、じぶんたちとはちがう人たちに対する偏見や敵意をうえつけようとするかもしれません。けれども、どうかそんなものにまどわされないでください。外国人も少数民族や、考えかたのちがう人たちも、わたしたちとおなじように人を愛したり、なやんだり、苦しんだりしているのです。どんなにたいへんでも、どうかそうした人たちを、心からみなさんのなかまにむかえいれてくだし。あるがままで、うけいれてほしいのです。そうすれば、その人たちも、みなさんといっしょにいるかぎり、安心していられるでしょう。

 そうすることではじめて、世界中の人たちが、なかよく平和にくらせる社会ができるのではないでしょうか。(P.143)

直接的な言葉でね、「みんな仲良くしましょう」とそれを実践していない大人から言われても、白々しく聞こえるだけ。

こういう物語に触れて育つのって、ホント大事だなあ、と思うのでした。


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