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共生のヒントここにあり!


『路上のストライカー』(2013年)マイケル・ウィリアムズ作 

さくまゆみこ訳 岩波書店

Now is the Time for Running,2009 by Michael Williams

これも、大人も子ども(中学生以上)にも手に取ってもらいたいなあ、と思った一冊です。過酷な人生を知ること、幼い子どもたちには必要ないこと。でも、中高生以上は知ってもいいかな、って思います。そこから、見えてくることもあるから。自分の狭い世界から抜け出す、きっかけともなりうるから。

壮絶な物語です。

■本でしか描けない物語

すごくドラマチックな物語なので、映画化要望の声もあがるかもしれません。でもね、これこそまさに本でしか描けない物語だなあ、って思ったんです。

なぜか。

主人公たちの経験したことは壮絶です。目を覆いたくなるような残虐な場面も多い。これ、映像化してしまったら、そちらのインパクトが強すぎて、肝心の主人公の心情に重いを馳せることができなくなってしまう、と思うんですよね。

文字で描かれると、内容や状況はきちんと把握しながらも、衝撃的な場面は映像化するかしないかは、読者の頭の中に委ねられている。だから、重い内容でも、最後まで読み切れるのではないかな、と。

■サッカーで広がる可能性

この物語を読んで、サッカーって本当にすごいな、って心底感動しました。(いままで全く興味なかっただけに)

お金をかけなくても楽しめるから、貧しいといわれてる国でも盛んなんですね。ボールがなければ、あるもので作る。訳者のさくまさんがケニアの田舎で見たのは、黒いビニール袋を束ねて、ひもをぐるぐるかけた手作りボールだったそうです。

デオたちが出るストリートサッカーのワールドカップのモデルになったのは、ホームレス・ワールドカップ。現在は毎年開催されていて、2012年の時点では73か国から累計5万人が参加しているんですって。日本でも「野武士ジャパン」というチームがあるそうです。

ホームレス・ワールドカップは、人生をやり直すチャンスなんです。出場選手の77%が家と呼ばれる居場所を見つけ、ドラッグやアルコールと手を切り、学校に通ったり、職に就いたり、訓練を受けたり、仲間や家族との絆を修復できるようになるだそう(あとがきより)。

まともなボールですら手に入らない人たちなので、サッカーの英才教育受けてるわけじゃないんですよ。サッカースクールももちろんない。それでも、チャンスがあるって素晴らしいな、と。スポーツって本来こういうものですよね。

■共生のヒントが

デオが最終的に逃げてたどり着いたのは、南アフリカでした。ところが、そこでもゼノフォビア(外国人憎悪)が待ち受けていた。外国人襲撃の場面は衝撃ですが、作者いわくそれでも2008年5月に実際に起きた出来事を手加減して描いたにすぎない、と。

こんなことが世界では起こっているのか。自分の悩みはなんてちっぽけなんだろう、と思わずにはいられません。

ところで、デオがチャンスをつかめることになったストリートサッカーチームは、ワールドカップでは南アフリカという国の代表です。ところが、選手たちは寄せ集め。ジンバブエ、ケニア、アンゴラ、モザンビーク各地から逃げてきた難民が多いのです。差別を受けてる南アフリカのために戦えるのか。誰のためにプレイするのか。一時は仲間は決裂します。

悩みに悩んだコーチが提案した最後のトレーニングが素晴らしかった!ここに共生のヒントがあります。結局、人は過去ときちんと向き合わないと乗り越えられない。そして、お互いに歩み寄らないと理解できない。差別は無知から生じるのだから、お互いを知ることから全ては始まるんだなあ。心動かされました。

装丁も海外のペーパーバックを意識したような作りで軽く、現代っ子にもすすめやすそうです。

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